第33話2.33 閑話 弟妹たち&サクラの学園生活



「あーーーー、やっと算数の授業が終わったーーーーー」

「むむむーーーー!」


 俺と俺の従者であるユーヤにぃが同じように机に突っ伏していると声が聞こえた。

 

「昼からは、実技だぞー。昼めし食いすぎて吐くなよー」


 担任の教師だ。名前は…………忘れた。入学試験の時にちょっと殺しかけた人だ。


「よっし!」

「ん!」


 気合を入れる俺とユーヤにぃだが、すぐに元の態勢に戻った。


「あー、ビルとユーヤは実技免除だぞー。今日はもう帰っていいぞー」


 残念な言葉が聞こえてきたから。


「……帰ろっか」

「む!」


 皆が弁当を広げたり食堂へ向かったりする中、俺とユーヤにぃは、とぼとぼと門へ向かって歩いている。そんな時、前から聞きなれた声が聞こえてきた。


「サーヤ、またクラスメイトに変なこと言ったでしょ」

「変なことって何です?」

「アル兄さんが、ラスティ先生と一緒にお風呂に入ってたとか何とか。近くで聞いてた女子がケダモノでも見るかのような目をしてたわよ」


 手で目を吊り上げてその女子の真似をするシェール。サーヤは何でもないように返した。


「本当のことを言っただけです」

「え⁉ ほんとうなん⁉ アルから女子を遠ざける為の嘘やなくて⁉⁉⁉⁉」


 驚きの声を上げたのはサーヤの隣を歩いていたサクラさんだ。


「そうです。本当です!」


 サクラさんににこやかな笑みを向けるサーヤ。シェールは大きなため息をついた。


「サクラさん、それはアル兄さんが6歳の時の話よ。しかも温泉に行ったときに1回だけ一緒に入ったってことなのよ」

「そ、そうなんか。6歳のときやね。ははははは……」


 子供のころの話なのに何だか微妙な表情をしていたサクラさんが立ち止まり首を横に振る。そして俺たちに気付いた。


「ああ、ビル君にユーヤ君やないか。君らも帰りなんか?」

「うん。実技免除になったから」

「そうか~。うちらと一緒やな」


 俺たちの横で歩き始めるサクラさん。

 ちょっとやりすぎじゃない! とか、あの子ちょっとアル兄様ねらい目とか言ってたです! とか言い合いを続けるシェールとサーヤから距離を取りたかったようだ。


――その気持ちとてもよく分かる


 前の2人の言葉を聞きたくない俺はサクラさんに話しかけた。


「それで、サクラさんたちは、どこ行くの?」

「んー特に決めてないな。どっかでランチして帰ろかいうぐらいやな。そういうビル君たちは?」

「俺たちも何もない。帰ってユーヤにぃと模擬戦ぐらい。でもそれも飽きたし、もっと強い敵と――」


 そう思ったところで良い案が浮かんだ。


「サクラさん!」

「なんや?」

「魔獣討伐行かない?」

「はーん、実践訓練やな?」

「はい! サクラさんならアルにぃが相手するような強い魔獣がいるとこ知ってるよね?」

「まぁ、知っとるけど……」


 少し困った顔をするサクラさん。俺は頼み込んだ。


「お願いしまっす! 連れてって欲しいっす」

「むむ!」


 ユーヤにぃも俺に合わせて頭を下げる。そこにシェールの声がした。


「ビル兄さんにユーヤ兄さんまで何でサクラさんに謝ってるの?」

「ちげーよ! 謝ってるんじゃなくて頼んでるの! アルにぃが修行中に相手した強い魔獣がいるところに連れてって欲しいって‼」

「なるほどね」


 納得したシェールがサクラさんへ目を向ける。サクラさんはシェールに尋ねた。


「連れてってもええんかな?」

「いいんじゃない? 2人だけが心配なら私も行くわ。サーヤも行くわよね」

「行くです! アル兄様が修行した場所。ぜひ行きたいです‼」

「4人でも心配?」


 逆にサクラさんに尋ねるシェール。サクラさんは耳に手を当て、ぶつぶつと言い始めた。


「あ、アル? 今ええか? ……あんな、ビル君たちが魔獣討伐に連れてってくれ言うてるんやけど、ええかな? …………あ、うん。ええの? ………うん、うちが連れて行くんやったらヒーダ―山脈やな。…………うん。うん。そうか。中腹の広い所やな。…………うん。うん。危なかったら連絡な。……うん。分かったわ」


 耳から手を離し、俺へを目を向けたサクラさん、にっこり微笑んだ。


「ご飯食べてから行こか」

「よっし!」

「むむ!」


 喜ぶ俺とユーヤにぃ。サーヤも微笑んでいる。そんな中、シェールだけ顔が強張っていた。


「今の何?」

「え? ああ、『遠話』言うてな、遠くの人と話す時空理術。アルが最近、作ってん」

「アル兄さんが⁉」

「そうや。なんでも元……やないわ。昔の世界には在った便利な理術や言うてな。そんなに難しい理術やないし、すぐ使えるで――」


 ここまで言ったサクラさん、すでにやばいとおもったのか顔が強張っていたが止められなかった。


「時空理術が使えたら……」

「使えたらね……」


 シェールの目に力が入る。そう、シェールは、まだ時空理術が使えないのだった。

 目をきょろきょろさせて、口をパクパクさせるサクラさん。明らかに困っていた。


――シェールもサーヤのこと言えないだろ。理術となったら……


 内心でため息をついた俺は周りの空気を思いっきり気付かないふりをしてみんなに告げた。


「よっし! 飯だ飯‼」

「せ、せやな! 何食べよ!」

「何でもいい! 早くて量があれば‼」

「ん!」

「やったら、門の前の定食屋でどうやろ?」

「行こう!」

「むむ!」

 

 歩き始める俺たち。シェールは未だ難しい顔ながら付いて来ていた。




「ほな、行こか」


 昼食を終えた店の前でサクラさんが軽く告げる。直後、景色が変わった。


「おおー! 空が広い! 奥の山は高いなー!」

「むむーー!」


 山の中ほどぐらいだろうか、随分と開けた場所だった。

 喜ぶ俺とユーヤにぃ。対して女子たちは。


「ここはどのへんなの?」

「ヒーダ―山脈の中腹や。ラークレインはあっち」

「なるほど」

「あの、遠くに見える町はどこです?」

「確か、ルーホール町言うたかな?」

「へぇ~生まれ故郷です」


 場所の確認に余念がなかった。


「それで、魔獣はどこ?」

「まぁ、そんなに慌てなさんな。すぐ来るから」

「来る???」


 俺の疑問に答えながら上空を眺めるサクラさん。俺も空を見ていて――空飛ぶ魔獣が近づいてくるのを見つけた。


飛竜ワイバーンだ‼ でっか--くない?」

「むむ?」


 同じように空を見ていたユーヤにぃが首を傾げる。そこにサクラさんの笑い声が聞こえた。


「巣立ちしたばかりの飛竜ワイバーンや。君らにはちょうどええってアルが言うとった」

「えぇ~サクラさんそれは無いわ~。大きいのと戦いたいなぁ~」

「ビル兄さん、無理言わないの!」

「ちぇ~」

「ほらほら、戦闘準備‼」

「わかったよ!」

「む!」

「はいです!」


 シェールの面倒くさそうな声に反応した皆が隊列を組んで戦闘準備に入る。そんな中、サクラさんだけは。


「うちは見学しとくわ。他のやつが近づかへんように見張りもせなあかんし」


 少し離れた木の上へと転移していった。


 俺は再び飛竜ワイバーンへと目を向ける。すると向こうも俺たちを見つけたようで、真っ直ぐに滑空を始めていた。

 俺は気合を入れて叫んだ。


「戦いの始まりだー!」



―――


「うっわ、打ち切り漫画の主人公みたいなこと言うてるわ」


 ビル君の叫びを聞いて、うちは思わず突っ込みいれてしもた。


「あかんあかん、あの子も真剣にやってるんやから」


 ちょっと反省したうちは、見てもないビル君へ向けて軽く頭を下げる。そんなことを知るはずもないビル君たちが飛竜ワイバーンへ攻撃し始めた。


 初手はビル君やった。上空の飛竜ワイバーンへ向けて剣を振ると理力の塊が飛び出した。


「ほぉ~。『飛ぶ斬撃』やな。当たったらワイバーンの首が飛びそうな威力やな。当たったらやけど」

「くっそー。ちょこまかと!」


 避けられた飛竜ワイバーンへ再度剣を振るビル君やけど、今度は何も出えへんかった。

 おかげで飛竜ワイバーンの攻撃を食らいそうになるビル君。慌てて地面に転がっとった。


「まだまだみたいやなぁ。アルも最初はあんなんやったわ」


 修行空間で『武』の真龍にぼっこぼこにされとったアルを思い出して頬が緩んでしまう。

 そうこうしている間にシェールの氷槍が飛竜ワイバーンの翼に突き刺さっとった。


「流石、シェール。堅実やなぁ。慣れた理術で攻撃してる」


 痛がる飛竜ワイバーンへ向け上下左右から自在に氷槍を飛ばすシェール。刺さりこそしないけど小さな傷を付けながら飛竜ワイバーンの高度を地上3mぐらいまで下げさせることを成功させた。


 ギャオー――‼


 嫌そうな声を出す飛竜ワイバーン

 そのタイミングで攻撃を仕掛けたのは。


「む‼」


 ユーヤ君やった。全身をばねのようにしてユーヤ君が飛び跳ねる。そして、突き出した右拳を飛竜ワイバーンの顎へと命中させた。


「おぉ~。サーヤからのバフがあるとはいえ、凄い身体能力やな。それにあれ、アルが教えた言うとった『発勁』やな。まだ威力は弱そうやけど、あの体勢でも使えんのは凄い。飛竜ワイバーンが、ふらふらしながら逃げようとしとる」

「逃がさない!」


 シェールが行く手を阻むように氷槍を飛ばす。何本かは刺さるけど飛竜ワイバーンを落とすのは難しそうやった。


「くっそー! 逃がすかー‼ 斬撃―‼‼」


 駆け出すビル君が走りながら斬撃を飛ばそうとしと剣に理力込めてる。けど全然飛ばない。最後には。


「これならどうだーーーー!」


 理力を込めた剣を突き出して自分が飛び上がっとった。


「届いたみたいやな」


 ビル君の剣が飛竜ワイバーンの翼へ突き刺さる。結果、飛竜ワイバーンは体勢を崩して落下を始めた。剣が刺さったままのビル君を巻き込んで。


「危なないか⁉」


 手を出すかうちは迷う。その時。


「ビル兄さん! 剣を離して‼ 風よ‼‼」


 シェールの声と風の音が届いた。

 シェールの声を聞いたビル君が剣を手放す。そして風がビル君の落下速度を落としていった。


「シェール! 助かったぜ‼」

「ビル兄さん! もっと考えて行動して‼」


 ビシッ! と親指を上げるビル君へ容赦のない言葉をかけるシェール。だがビル君は全く気にしてへんかった。


「おら、俺の剣を返せ!」


 飛竜ワイバーンから剣を抜くためとはいえ何の武器も持たずに突撃していくビル君。まだ息のある飛竜ワイバーンの尻尾に弾き飛ばされとった。


「ほんまに考えてへんな……」

「このやろー!」


 ふらふらしながらも飛竜ワイバーンへ再突撃しそうな雰囲気のビル君。そんな彼を引き留めたのはサーヤやった。


「はーい。回復の時間です。大人しくしてくださいです~」

「サーヤ、待って⁉」

「待てないです~」


 嫌がるビル君やったけど気づいたら地面に寝かされとった。

  

「え⁉ 今何したん? ビル君の身体、くるっと回ったみたいに見えたけど……」


――アルどころか『闘』の真龍より上手いんちゃうか


 そう思えるような体術やった。


「傷修復完了です」


 瞬時にして治療を終えて立ち上がったビル君、大声で叫んだ。


「ユーヤにぃ。止めは俺がー!」


 けど、ちょっと遅かった。


「むん!」


 ユーヤ君の発勁が飛竜ワイバーンの腹へと突き立てられていたから。


 ぎゃお!


 短い悲鳴を上げて崩れ落ちた飛竜ワイバーン。ビル君も同じように膝から落ち取った。


「くそ~!」


 落ち込むビル君。うちは声を掛けた。


「ほら、立ってや。来るで!」

「何が?」

「そんなん、決まっとるやん。次の飛竜ワイバーンや」


 うちが指さした先へ目を向けるビル君。


「戦いは、まだ終わらない!」


 また、打ち切り漫画の主人公みたいなこと言うて走り出しとった。


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