第25話2.25 何とか誤魔化してみました
俺達がラークレイン城にたどり着くと、何故かメイド達が大慌てで走り回っていた。何かあったのかダニエラさんに聞いても明確な答えはない。
ただ、御心配には及びません、と返されただけだった。爺様の仕事の関係で何かあったのだろうと、あたりを付けた俺は自分の要件を優先することにした。
「サクラ、俺の部屋で話をしよう」
そう、突然学校へと入学してきた彼女から事情を聴くことだ。サクラを連れて俺の部屋に入りドアを閉める。このときドアの前までラスティ先生とシェールとサーヤが付いて来ていたが入室を断った。
とりあえず二人で話をさせてくれと。
「そんで、か弱い女の子を自分の部屋へ連れ込んでどうするつもりなん?」
部屋に備え付けのベッドに座ったサクラの口から、最初に出た言葉だ。
「いや、何もしないぞ。ただ、話を聞きたいだけで」
「ふーん、ホンマかなぁ~」
流し目でこちらを見ながら全く信じられないという顔をするサクラに、俺はちょっとイラっとした。
だから言ってやった。
「するわけないだろ? 俺は子供に興味はない」
その言葉に、サクラはわなわな震えていた。
「子供、うちが子供……」
いや間違いなく子供だろう。その体なら。確かに前会った時よりは成長しているけど、まだ10歳そこそこにしか見えない。それよりも俺は話を聞きたかった。急に成長したことと、ラークレインに何をしに来たのかを。
サクラは不機嫌そうな顔を隠しもせず口を開く。
「体は時空理術でアルと同じ12歳の大きしただけや。それとなにしにって、学校に通うために決まっとるやん」
「何で今更学校に? サクラの実年齢は、知らないけどもう充分大人なのだろ。必要あるのか?」
サクラの態度に俺のイライラも募る。おかげできつい口調になる。結果、彼女のツボを押してしまったようだ。
「アルなんて、知らんわ!」
叫んで部屋から出ていってしまった。
「何だよ全く。俺は、ただ何のために真龍がわざわざ出て来たのか知りたかっただけなのに。あんなに怒らなくたって。まるで俺が悪いみたいじゃないか」
悪態をつき不貞腐れて独り部屋に残っていた俺だったが、しばらくしてサクラがどこに行ったのか気になった。
帰ったのだろうか? いや、それならダニエラさんあたりが知らせに来てくれそうなのに、その連絡もない。
ひょっとして迷子に――という考えが浮かんでしまった俺はサクラを探すために部屋を出た。
俺がサクラを探し始めて数十分、廊下を歩き回ったけど彼女は見つけられなかった。
理術で気配を探れば分かるのだろうけど、城の中だと余計なプライバシーを侵害してしまいそうで気が進まない。代わりに廊下を歩いているメイドさんに片っ端から聞いていった。
何の情報も得られなかったけど。
一時間後。
歩き疲れた俺は諦めかけていた。城中歩き回っても全く見当たらないのだから。休憩に何かおやつでも貰おうと食堂のドアを開けた時、俺はドアノブを持ったまま、膝から崩れ落ちそうになってしまった。
なぜなら父さん母さんをはじめとした家族の中で楽しそうにお茶しているサクラを見つけてしまったからだ。さらに。
「お、アル。喜べ。サクラさんと一緒に暮らせることになったぞ」
ドアのところで肩を落としている俺へと父さんが嬉しそうに話しかけてくる。
第一声から内容がおかしかった。
どこに俺の喜ぶ要素があるというのか? と頭を抱えたくなる内容だった。
「なんだ? もっと嬉しそうな顔をしろよ。お前が、わざわざ城まで連れて来たのだろう? そのために急遽、メイドさんにお願いして住んでもらう部屋や歓待の用意までしてもらったのに……」
いや確かに俺が連れて来たけど、言い出したのはラスティ先生だし、一緒に住みたいなんてことは、口にしていない筈なのだが。
「あなた、その辺にしてあげて。アルが恥ずかしがっているじゃない。それに、シェールが言っていたでしょ? アルは、サクラちゃんの時空理術が知りたくて呼んだだけだって」
「ああ、そうだったな。そういう建前だったな」
いったい何の話だ? 俺には建前も本音もないのだけど。ただ、なにが目的でサクラがハイヘフンから出て来たのか知りたいだけなのに、いったい何を勘違いしている。なぜ、そんな全部分かっているわよ。って感じの目を向けるのだ。
父さんも母さんも。爺様もウィレさんまで。
「ですが、いい判断だと思います。失われて久しい時空魔術の再現者を紅龍爵家に取り込めるのですから。流石、アル様です」
今度はホリーメイド長だ。この人まで口をはさんでくる。半笑いで――俺の分のお茶を用意しながらではあるが。
このあたりで俺は、ようやく話が分かるようになってきた。お茶を飲んで落ち着いたおかげで、止まっていた思考が動き出した感じだ。
誰が考えたか分からないけど、俺はサクラの時空理術欲しさに城に呼んだことになっているようだ。裏ではサクラに一目ぼれした、みたいな設定まで盛り込んで。そこまで理解した俺は、お茶のカップを手に考える。どう返すのが適当かを。
実のところ、この設定悪くない。未だ隠している時空理術を目立たずに公に出来るのだから。問題があるとすれば俺が惚れた腫れたという部分だ。
確かにサクラ、改めて目を向けても美少女だと思う。お茶を飲む所作も洗練されていて深窓のお嬢様みたいだし、もっと体が成長したら惚れることがあるかもしれない。でも今は違う。多分。あの時は、綺麗だ、なんて言ってしまったけど。
だから俺は考えに考えて口を開いた。
「サクラの理術すごく綺麗で、惚れちゃった。だから連れて来た」
そう好きになったのはサクラ個人ではなく理術だ。そう口にした俺に大人たちは納得顔を浮かべていた。
なーんだ、そういう事、とか、なるほど~、とか聞こえてくる。
――うまい事誤魔化せそうだ
内心、安堵しながら皆を見回していく。そして気が付いた。
シェールとサーヤとサクラの顔に何とも言えない強張りがある事に。
俺は今回の黒幕が誰であるかを悟った。
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