第22話2.22 俺だけは実力を隠したままの方がよいそうです
「仕方ありません。やりますよ、といっても模擬戦では芸がないですし……ここは皆に入学祝いがてら新しい事を教えたいと思います」
皆に披露するものを考えていた俺が選んだのは、これだった。
一番近くにいたビルから木剣を借りて教え始める。
「まず、ビル。さっきは、いい戦いだった。でも攻撃パターンがちょっと少ないかな。そこを変えるために剣で出来る遠距離攻撃を教えよう。組み合わせると攻撃に幅が出るしね。一回しかしないから、よく見ているように」
俺は腰を落とし、木剣を体側に構える。さっきビルが必殺技を出した時と同じ構えだ。その体勢で下丹田の理力を練る。
そこから理力を剣にのせ振り切ると――剣の先から理力の刃が飛び訓練場の壁の一部を破壊した。
飛ぶ斬撃、昔からマンガなんかで馴染みの技だ。実際に理力という力があるこの世界では比較的簡単な技だ。
『武』の真龍なんてマンガ読んで二秒で再現して、何がすごいのか? って首傾げていたぐらいだから。
「ビル、分かった? これなら放出系が苦手なビルでも出来るはずだ」
はい、と木剣をビルに返す。渡されたビルは、ポカーンとしていた。
続けてユーヤ兄だ。
「ユーヤ兄の基本攻撃は打撃です。だから鱗を纏った魔獣や鎧を着た騎士など防御力の高い相手にダメージを与えるのは苦手だと思います。そこを克服する技を教えます。コツさえつかめば簡単ですので、よく見ていてください」
言いつつ今度は技を披露する的を土理術で作っていく。片面が固い金属、もう片面が普通の土という二重構造の的を。
そして金属面に拳を添えて下丹田で練った理力を拳の少し先で爆発させる。すると、あら不思議、金属面には何の変化もないのに土面が爆ぜるのだ。相手の内部を破壊するとか何とか言われる、ファンタジーな中国拳法でお馴染みの発勁だ。
だが、この世界ではファンタジーではない。理力を用いて実用化されている一つの技だ。『闘』の真龍が普通に教えてくれた。一般的ではないのかもしれないけど。
「分かります? ユーヤ兄。下丹田の理力を相手の中で爆発させる感じです。大丈夫すぐできますよ。ちなみに馴れると離れていても壊せます」
同じ動きで今度は壁をめがけて拳を突き出すと壁の一部が壊れた。その壁を指さしながらユーヤ兄を見ると。
「むむ!」
分かったと言いつつ直立し平手と拳を突き合わせ礼をしていた。拳法家みたいな挨拶である。
そして、頑張る! だそうだ。
その次はシェール。
「シェールには光理術での攻撃方法を教えよう」
話す俺にシェールは怪訝な顔をした。
それもそのはずで、一般的に光理術は、ただの照明扱いだ。他には何も使い道がないとされている。おかげで多くの人が使える理術なのに研究が進んでいないのだ。
真龍ですら『光』と呼ばれる者はいないぐらいに。
「まぁ、そんな顔するな。見ればわかるから」
シェールに一言掛けてから中丹田の理力を練る。
俺も実は最初に光理術の話を聞いたとき首を傾げた。光も物質であるのだから気体を操る風理術と同じでいいのではないかと。だが実際にやってみると光理術の本質は大きく異なっていた。
その本質というのは――波を操るという事だった。光も音も波だ。その波を自在に操るのが光理術の神髄だったのだ。
最近は『風』の真龍が俺の発見を理解どころか発展させて光理術使っているが。
そんなことを思いだしながら光の指向性を一点に集めるように操作する。そして出来上がった一筋の光、いわゆるレーザー光線が訓練場の壁に穴を開けた。
「なんなの今の!」
壁の穴を指さしながら物凄い剣幕で俺の所に駆け寄ってくるシェール。俺は彼女を宥めつつ説明を始めた。
「今のは、簡単に言うと太陽の光を集めて高エネルギー状態にしたんだ。大きな光がないと使いづらい理術だけど、少ない理力で大きな破壊力を出せるのが特徴だ。後で資料渡すから」
資料と聞いてようやくシェールの顔から少し険が取れた。見ても何も分からなかったのだろう。じっくり資料を読んで欲しいところだ。
そして最後はサーヤだ、と思ってサーヤのいた方へ顔を向けると、既にすごく接近されていた。
親の前で恥ずかしいのか抱き着いたりはしてこなかったけど、狐尻尾がぶんぶん振れている事から期待度が見て取れる。
けど、俺はそんなサーヤの見て困ってしまった。
「うーん、サーヤには何を教えようかな? 回復理術は既に俺より上手そうだし、護身術も教えたし……サーヤは何がいい」
教える事柄を決めかねていた。だったらと思って聞いたのに。
「アル兄様が教えてくれるなら何でも知りたいです」
と返って来たのでさらに困ってしまう。せめて方向性だけでもと尋ねると、サーヤらしい答えが返ってきた。
「アル兄様の役に立てるのがいいです」
そこは主人となるシェールの為になる物って言うべきではと思ったけど、キラキラ光る目を見るとそれも言えない。そんな目に見つめられながら悩んだ俺は、『俺を助けたい』という言葉から、俺を含めた他者を助ける理術を教えることにした。
「サーヤには他者の筋力をアシストする理術を教えます」
ゲームで言うところのバフと呼ばれるものだ。理論は超簡単。理力で筋肉の補助をするのだ。
理術学風に言い換えると下丹田の理力で行う自身の身体強化を上丹田の治癒理力で他者に行う、と説明できる。
これは理力の循環で傷の修復速度を速める初歩的な回復理術によく似た術だった。
「試しにビルにやってみるから見ていて」
さっきから一人で理力の刃の再現をしようとしているビルへ向け筋肉強化理術を放つ。するとビルの体が仄かに光、動きが変わった。
「体が軽い」
言いながら剣を振り回すビル。かなりの剣速だ。速いからと言って理力の刃が出るわけでは無いけど。
「ちなみに、こんなこともできるよ」
俺が再度理術を放つとビルの剣速が三歳児並みに落ちた。
「なんだ? すごく重いぞ?」
筋肉抵抗理術、いわゆるデバフだ。 理力の循環を遅くしてやれば動きの抵抗になる。発想の逆転だ。
ビルの理術を解き、出来そう? とサーヤに顔を向ける。するとサーヤ、既にユーヤ兄に向かって筋肉抵抗理術を放っていた。ん‼ と言って尻餅をつき、もがくユーヤ兄。見ているとなんだか悲しくなってきた。
きっとシェールに教えたら俺も同じ目にあっていたに違いないから。サーヤ、ユーヤ兄にも優しくしてあげてね。そして、ビルごめんね、と心の中で謝っている自分がいた。
まぁ、俺の場合は理術阻害できるけどね……。
四人に一通り教え終えて一息つく俺は、そこで一つ気になった。周りがやけに静かなことに。
辺りを見回す俺、親たちの様子を見て言葉を失った。
目に入る人皆、頭を抱えて考え込んでいたのだから。俺が教え始めるまではビルやシェール、ユーヤ兄とサーヤを褒める声が聞こえていたのに。
そんな中でもラスティ先生だけは変わらず満面の笑みをたたえていたけど。
ひょっとして俺が悪いのか? 見せろと言われたから見せたのに。意味が分からない。それとも訓練場の壁壊したこと怒っているのだろうか? それなら、すぐに治りますよ、と土理術で一気に直したら、今度は大きなため息が聞こえた。
なぜだ⁉ 元の壁より頑丈にしたのに。本当に意味が分からない。困惑する俺に、本を見る時よりも真剣な顔をした父さんが力強く告げた。
「アル、お前は実力を隠せ。商人になるのが一番いい」
「ええ、それがよろしいかと。学園で教えることもございませんので……」
シガー学園長先生まで追随してくる。
――解せぬ。俺が何をしたというのだ
そんな思いを残して俺達の入学試験は終わった。
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