第21話2.21 本当は、全力を見せたくて仕方がなかったようです

★が100超えたのが嬉しかったので、本日二話目の公開です!


―――


 帰りの馬車で俺は、皆に自分のことを自分で決めるように伝えた。


「もう隠さなくていいの?」

「ビル兄さん、ちゃんと話を聞いていた? 隠すか隠さないかは自分で決めろってアル兄さんが言ったでしょ」

「そう自分で考えて決めてね。あ、でも、俺の作った装備のことは、しばらく言わないように」

「ええ、なんでー? あの剣があったら敵なしなのにー」

「ほんと、考えて話してよね。ビル兄さんは。あんなのどこで買ったって言うつもりなのよ。それに、アル兄さんは、しばらくって言ったでしょ。ちゃんと聞いてよね」


 とこんな感じの反応だったけど多分伝わったはずだ。ユーヤ兄とサーヤにももちろん聞いてもらっている。

 サーヤが少し寂しそうな顔をしていたので狐耳を撫でておいた。別に分かれる訳では無い、と頭で理解できても感情は別なようだった。


 サーヤの耳を撫でてほっこりしているうちに馬車はラークレイン城へと戻りついた。馬車を下りホリーさんに連れられて俺たちは爺様と父さんが仕事をしている部屋へとたどり着いた。


「お、帰ったか。試験は、どうだった?」


 俺たちに向けてにこやかな――怖い――顔で問うてくる爺様。その爺様に俺は深々と頭を下げた。


「爺様、父さん、ごめんなさい」

「ど、どうしたアル⁉」


 俺のあまり見せたことのない態度に狼狽する爺様と父さん。そんな二人に俺は今日試験中に起こったこと、そして皆の実力を隠していたことを説明した。

 笑顔から一転、深くため息をついた爺様は真顔になった。ちなみに真顔の方が怖くない。


「ユーロス知っていたか?」

「子供たちが何かを隠しているだろうという事は、知っていました。でもまさか、学園長先生まで出張って来るような大それたことだとは思っていませんでした」

「それは、そうだろう。普通これくらいの子供なら嬉々として伝えてくることだからな。剣にしろ理術にしろな」

「まぁ、そうですね。自慢したくて、力に酔って、失敗して、誰かを傷つけて。そんな年頃です」


 爺様に合わせるように父さんも真顔で淡々と話している。そんな雰囲気に耐えられず俺はまた頭を下げる。


「ごめんなさい。全部俺が悪いのです。皆に口止めして、大人たちにばれないようにと――」


 言い切る前に頭を小突かれた。


「アルよ。謝ることなのか?」


 父さんだった。


「嘘をついたら、謝るべきかと」

「そうか、それなら、もう十分だ。今小突いたことで許そう。そんな事よりも俺はアルを褒めてやらないといけない。よく皆を守ってくれたと」


 言って父さん、今度は俺の頭をぐしぐし撫でだした。

 この時、俺は意味が分からなかった。どこに褒められる要素があるのか。


 小さな子供に隠れて危険な訓練をさせていたのだ。一つ間違うと怪我どころでは済まないような。なのになぜと思っていると爺様の声が聞こえた。


「ユーロスよ。アルが褒められて困っているぞ。ちゃんと説明してやれ」

「そうか。分からんのか? 頭のいいお前でも。いいぞ。ちゃんと説明してやろう」


 そうして父さんは教えてくれた。この危険な魔獣の闊歩する地では戦う力を持つという事がどれほど大切かを。自分も頑張っているが、すべての子供を守り切れるかと言われれば不安が残る。

 それを俺がやってくれてすごく助かったと。


 言い終えても頭を撫で続ける父さんに俺は涙が出そうなぐらい嬉しかった。そんな俺を爺様と父さんはにこやかに眺めていた。


 しばらくして、俺が涙をこらえる必要が無くなったころにハロルド兵長が部屋にやってきた。

 学園長先生もラークレイン城に到着し模擬戦の準備が整ったと知らせるために。

 

 ぞろぞろと揃って訓練場へと向かう。訓練場には母さん達家族の他に、ホリーメイド長、学園長先生、ラスティ先生が並んで待っていた。

 いつの間にか母さん達にも話が通っていたようだ。

 

「誰からやる?」


 ハロルド兵長が気やすい態度で聞いてくる。さっきの学園長室との違いに戸惑うが、こちらの方が本来の態度だ。

 俺も返事がしやすい。


「ビルとユーヤ兄で行きましょう」


 俺の発言を聞いた二人が嬉々として前に出る。皆の前で本気を見せられるのが嬉しいようだった。その態度に少し罪悪感が湧くが横にいた父さんに肘で小突かれて思い直した。

 間違ってなかったと。


 ハロルド兵長の合図で始まる模擬戦。先手はビルだった。


 身体強化全開でユーヤ兄へ突撃を掛ける。だが、黙ってやられるユーヤ兄ではない。

 頭上から振り下ろされる木剣を、こちらも身体強化全開にして右手の籠手でいなし即座に足払い。しかし、ビルも読んでいたのだろう、後方への跳躍で足払いを回避し元の位置へと戻る。この間、おおよそ、一秒ほどか。

 瞬き一つで見逃してしまう攻防だ。


 その後もビルは手を変え品を変え攻撃を仕掛けるが今一歩届かず避けられる。だが、攻撃が当たらないのはユーヤ兄も同じだ。

 どちらも決定打を打ち込めぬまま続く戦い。この攻防、先にしびれを切らしたのはビルだ。


 距離を取り、剣を横に腰を落としたビル、彼の必殺技を出すようだ。その構えにユーヤ兄も反応する。

 今までの完全な受け状態から一転、前傾姿勢へと至り突撃の姿勢を見せる。二人揃って一呼吸の後、飛び出して――両者が中央で激突した。


ガッシーーーーーーン!


 激しい衝撃音が響いた結果、ビルの剣がユーヤ兄の横腹にユーヤ兄の拳がビルの胸元に当たり、弾け飛んだ二人は仲よく壁へと激突した。


「うぉ!」「大丈夫なのか」「ビル!」「ユーヤ!」


 各々の家族から声が上がり駆け寄ろうとするが、それより先に動いた人たちがいた。シェールとサーヤだ。それぞれの兄の元へ向かい、骨接の理術と、傷口修復の理術を掛ける二人。

 数秒後にはビルとユーヤ兄、何事もなかったように立ち上がった。


「くっそー、攻めきれなかった!」

「む! む!」


 引き分けたことを悔しがりながら戻ってきた二人に誰もが呆然としていた。


「えっと、どうでしたか? 続けてシェールの理術見ますか? 今、回復理術使ったのは見てもらえましたか? サーヤもですけど?」


 聞いているのに誰からも返事がない。


「父、さん?」


 進めたほうが良いのか迷って父さんに声かけたら、わなわな震えだしていた。


「あ、あ、あ、アル? あれはなんだったのだ。……ビルとユーヤ君、ほとんど見えなかったけど。……それに、あんな激しく壁に激突して大丈夫なのか? 怪我はないのか?」

「ビルとユーヤ兄が本気で身体強化したら速度はあれぐらいですね。それと怪我はシェールとサーヤが治してくれましたから。大丈夫ですよ」


 それで次どうします? と聞こうと思ったら父さん、頭を抱え込んで動かなくなってしまった。仕方なく爺様に目をやると爺様もこっちを見て口をパクパクさせていた。どうやら驚きすぎて声が出ないらしい。


「爺様、聞こえませんが」


 言いつつ口元に耳を近づけると。


「どうしたら、こんなことになるんじゃー‼!」


 大声で叫ばれてしまった。おかげで耳がキーンとなる。いやだから、と再度説明しようとするが爺様に両肩を掴まれ揺さぶられる。


「おい、アル。あの子らに何をさせた。何だ、あれは! 今の儂どころか全盛期ですら軽く超えておるではないか! それに、何だ、あの回復速度、骨折を簡単に治すなん並の回復理術師、普通なら一週間はかかる術だぞ。いったい、いったい何をしたらあんなことが可能になる」


 言いながら延々と俺を揺さぶる爺様。だんだんと頭がくらくらしてきた。


「エクスト君、落ち着いて」


 そんな爺様を止めてくれたのはラスティ先生だった。


「しかし、先生」

「しかしじゃないでしょ? 教えたでしょ、困ったときは、まず落ち着いて考えなさいって」


 先生の助言に、はっとした爺様。考え込んでしまった。助かったのは良いけど話は進まない。困った俺は他を見渡した。だが、みんな考え込むか首を横にするかして、とても話が出来そうな雰囲気ではない。

 俺は諦めて待つことにした。そして数分後、ようやく父さんが復活してきた。


「さっきのが、あの子たちの本気という事なのか。ははは、アルの隠したくなる気持ちが良く分かったよ。あれは、子供が持つには強すぎる力だ」


――流石父さん、よく分かっている


 と同意していたら爺様も復活してきた。


「全くだ。よくぞ、ここまでの力を隠し通したものだ。ビルの性格なら、つい言ってしまいそうなものなのだがな」


 頷き合う二人。流石親子、息ぴったりだ。その後も、流石、ユーロスの子供たち、とか、いえいえ、父さんの孫たちですよ、とか褒め合っている。

 そんな二人を諫める声がした。


「あなた、ユーロス。まだ終わりではないですよ。シェールの理術を見ていません」


 シェール大好き、ウィレさんだった。


 火、水、風、土、氷などの属性理術を、高出力射出、高速度射出、並列展開、合成展開など、自由自在に放つシェール圧巻でした。


「シェール、凄いわ」


 駆け寄り抱きしめて撫でまわすウィレさんに、照れまくりのシェール。普段のクールさとのギャップも含めて、凄かったです。

 

「さて、それぞれ、試技は終わりでよろしいですかな」


 未だ終わらぬウィレさんのスキンシップをよそに口を開いたのはシダー学園長だ。


「「はい」」


 ビルとシェール、該当の二人が返事をする。すると、そこに一つの声が上がった。


「アルはしなくていいの?」


 母さんだった。


「いや、俺は商業学部だから。実技試験ないし」

「え、でも、ビルもシェールもユーヤ君もサーヤちゃんも、教えたのアルでしょ? それならアルも実力見せてもらわないと」


 筋が通ってそうで通っていない案を出してきた母さんに、大人たちが何故か同意する。


「何を恥ずかしがることがある」

「大丈夫だ。父さんは何があってもアルを見捨てない」

「がはは、男だろ!」

「そうだぜ。今後の為に見せてくれよ」


 爺様、父さん、ワーグさん、ハロルド兵長だ。というか父さん何を思った? 俺が弱い事を期待しているのか? ともかく何かをしないと終わらなさそうな雰囲気に負けた俺は何を見せるか思案し始めたのだった。

 

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