第9話1.9 書斎には本がうなっていました
アルです。俺は今、とても驚いています。なぜなら。
「うぉぉぉ、部屋中本だらけだ……」
広めの部屋一杯に本が天井近くまで積みあがっていたのだから。
小さな町の図書館と同じぐらい蔵書がありそうだった。
「どうだ。凄いだろ。父さんのコレクションだ」
「すごいです。図書館みたいです」
驚く俺の顔を見てご満悦の様子の父さん。本好きだと聞いていたけど、これほど集めているとは思わなかった。
「それじゃ、俺は仕事に戻るから好きな本読んでいいぞ」
「ありがとう、父さん」
御礼を言われて嬉しかったのは恥ずかしそうに微笑んでから父さんは書斎を出ていく。俺は本の物色しながら考えていた。
「歴史書、物語、理術、実用書……本当に何でもありそうだな。というか、どうしていきなり書庫を開放してくれたんだろう?」
半年ほど前聞いた時には、子供が読むには難しい本ばかりだから、と断られていた。
何か心変わりをする要因と言えば。
「フリマを提案したことか?」
「多分、そうよ」
「うぉ! ラスティ先生いつの間に……」
耳に息がかかるほどの距離で声がしたから驚いていると、先生がくすくす笑う。俺は耳を押さえながら聞いた。
「先生、何かご存じなのですか?」
「詳しくは知らないわ。でも、あんな提案できるならここの本も理解できると思っても不思議ではないわ。それと、もっとあなたと話をしたかったのよ」
「なるほど?」
前半は納得であるが後半はよく分からない。話がしたいなら普通に話をしてくれればいいと思う。
頭を悩ます俺を微笑ましく見ていたラスティ先生が本棚を指さす。
俺は、考えても分からん、と思考を打ち切って再び本を探そうとして止めた。
「どうしたの? 届かないなら抱っこしてあげるわよ」
「多すぎて選べません。おすすめはありますか?」
「そうねぇ。アル君が好きそうなのは、これかな?」
言いながら棚から取り出したのは、『ハポン王国旅行記』という題名の本だった。
「王都の貴族が書いた本で、王都とか他の町の特産品や美味しい料理なんかが書いてある本なの」
「美味しい料理ですか! 読みたいです」
「うん、じゃ、行こ」
先生は俺をひょいと片手で抱き上げて椅子へと歩く。そして、慣れた手つきで俺を膝の上に座らせ、本を広げ読み始めた。
自分で読みますが――という俺のつぶやきを無視して。
結果的にラスティ先生に本を読んでもらったのは正解だった。何しろ文章で使われる言葉は聞いたことない単語の連発だったから。
自分で読んでいたら辞書を延々と捲る羽目になって全然進まなかったと思う。
そんなことを思いながらも、読んでくれている先生に質問をする。
「砂糖ってあるんですね」
「あるわよ。この辺りは産地じゃないから凄く高いけどね」
「では、ハチミツは?」
「この辺りでも取れないことないけど、ハチってかなり強い魔獣だから……食べたい?」
首を横に振って俺は否定する。この世界のハチ、甘く見てたら駄目なやつだった。
「ハチも魔獣なのか……っていうか魔獣って何なの?」
「魔獣は、魔石を持つ生き物のことよ。好戦的でね。人も襲うの」
つぶやきにまで答えてくれた先生は、さらに俺の疑問が収まるまで本を読むのを待ってくれる。
結果、ほんの数週間で、多くの言葉と、
――
アルがラスティから本を読んでもらっているその時、高次元のとある場所では、そんなアル達が映し出されるモニターを見ながら、他愛のない話が行われていた。
「やぁ、調子はどうだい」
「あ、ご苦労様です。
「そうか。簡単には変わらんか。仕方あるまい。それで、例の彼は?」
「壊れていた魂との融合は、無事に成功したみたいです。自我を取り戻して、現地の言語と歴史を学んでいる所ですね。優秀な教師もいるようで、学習速度は速いです」
「それは、重畳、重畳。『心願成就』の効果が表れているのかな」
「は? 『心願成就』ですか? ただのおまじないですよ? 効果などあるはずが?」
「ほっ⁉ なるほど。なるほど。君は本当におまじないとしてしたということかな」
「は、はい。それ以外に何があるかと……」
「うむ、そうか。そうすると何の制限もかけずに?」
「制限、というと、成就する事柄や影響力を限定するようなですか? 何もしておりません」
「本当かね⁉」
頭を抱える男性らしき個体。言われた女性らしき個体は、首を傾げる。
「いいかね。
「それって、もしかして彼が恋人にでも振られて悲しみのあまり世界の滅亡を願えば……」
「そうだ。天変地異で滅びかねない」
「……ど、どうしましょう」
「彼はまだ、力には気づいていないな」
「おそらく」
「なれば、すぐに『心願成就』に制限を……」
腕を組んで考え込む男性らしき個体。
「どうされました?」
「いや、制限をかけてしまうと、それはそれで世界の発展に遅れが出ないかと思ってしまってな」
「世界が滅ぶよりは、ましなのでは?」
「だが、今はいい方向に働いている。折角のチャンスなのだ……そうか、あちらの世界でなら『心願成就』がどう働いたか分かるはずだ!」
男性らしき個体は、空中にパネルを出して操作し始める。
「あった、あった。これだ。ほれ、送るぞ」
「はい! あ、いくつか使ってますね」
「ああ、綺麗なお姉さんに優しくいろいろ教えてもらいたい、ケモミミ娘の耳をモフモフしたい、だな……」
「ははは……」
二人は目を合わせ、苦笑を浮かべる。
「大丈夫じゃ、ないですかね?」
「そうだな。大丈夫そうだな」
「ならこのままで」
「うむ、変な願いの時は報告してくれ」
「了解いたしました」
二人は互いに頷きあった後、男性らしき個体は部屋を出て、女性らしき個体は、モニターに集中していった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます