超新星

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超新星

 のめり込むほどに机に顔を近づける癖で、髪に蝋燭の火が燃え移ってしまいそうですが、そうなっても構わないとすら今は思うのです。暗闇を照らす小さな蝋燭は、手元を灯すには十分ですが、夜の冷たい隙間風をしのぐには、やはり十分ではありません。鉛筆を握る私の手が、今まるで蝋燭のように震えているのはこの寒さのせいでしょうか。

 彼が迫る速度よりも速く鉛筆を動かさないと、あの真っ黒な影が私を捕らえてしまうでしょう。額に滲む冷や汗を時折腕で拭いながら、私は書き続けます。私自身の物語を。

 書き殴る鉛筆のすぐ横を通り過ぎた黒い影を蝋燭の煙と見間違えた瞬間、とてつもなく巨大な手のひらが私の右肩に触れました。それでも私は書き続けます。肩に触れられる感覚が、だんだんとはっきりしていきます。恐怖のあまり頭が真っ白になって、物語を書いていた腕は紙を黒で塗りつぶすだけになりました。真っ白だった紙がとうとう黒に染まったとき、左肩にも巨大な手が触れて、その瞬間私の腕や肩の体全体は、無気力にだらんとくたびれてしまいました。それから私は、目の前の窓を意味もなく見つめました。そこには蝋燭の灯りが反射して、夜の景色の代わりに私の姿が映し出されていました。両肩には巨大な黒い手が添えられています。私の右手には芯の丸まった鉛筆が親指の付け根に頼りなく引っかかっています。表情を失った私の頬を一筋の涙が伝うと、同時に彼はゆっくりと肩に添えていた手を放し、真っ黒な影はその巨大な腕を私の胸の前で交差させ、長い首が私の右肩にのしかかりました。彼は背中に担いだ死体のように、私の体に気持ち悪く覆い被さります。確かに重さを感じるのです。

 これが私の逃走の終わりか。逃げるように泣き笑い、逃げるように生きてきた故に失った数々が、報われることもなく死んでいくのか。今、突然笑いが込み上げたのも、悲しみからの本能的な逃走でしょうか。いや違う。窓に映る私の姿がまるで絵画のように美しかったからだ。昆虫のようにまとわりつく彼を背に、手には使い古した鉛筆を、頬には涙の跡が。逃走は終わったのです。私は今、最後の輝きを放って人ならざるものとなるのです。私が、まさかこれほどまでに美しいとは。絵画の名前は「超新星」これまで失った様々が今真っ黒な光を放って爆発するのです。私は思わず立ち上がり、堪えきれない笑いを暗い天井に向けて吐き出しました。なんと美しい作品でしょうか。

 すると、彼の体が私の体に沈み始めました。影のような彼の巨体が、氷が解けるように、私に少しずつ吸収されていきます。私は構わず笑い続けます。すると突然私の足先と指先が、燃え尽きた灰のようにポロポロと崩れ落ちて、真っ黒な影に姿を変えました。それはゆっくりと、しかし着実に全身を侵食していきます。黒い影は体の大半を飲み込んで、それは肩を超えて首を超えて、私は水に溺れる人が酸素を求めるように、目と口を大きく開いて笑いました。美しい。ああ、なんと美しい作品でしょうか。

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超新星 yt @yt2477

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