TC (テンペラー・コード)神々の系譜…知らざれし力たち

とあラノ

プロローグ 『神々の系譜』 001 0-1 月光

 月夜の空に沈む転の星くずに、葉色の青い木々が風にさざめく並木道で、俺はそこに映る"凶"を見ていた。


 ……あの星座って。 ダメだ! 思い出せないーー


「……ッ!」


 俺は買い物袋片手に、走っている。忘れもしない。あの凍てる。妹は次の日から何日も高熱で生死を彷徨った。

 袋が重くて、うまく走れない……。 


 "シンクロニシティ"。兄妹間で過去に何度も起きた。行き交う車のナンバー、携帯のログ、テレビの時刻表示、同じ数字が羅列されたのを頻繁に見たりする。自然も然り。

 偶然が必然へと彩られる様があった。妹の身にわざわいあれば、俺の心に音律として不協和音がかなでられ、知らせる。


 いまだってそうだ。  "あの"ひときわ瞬く夜空の星をみて、


 角を折れてすぐ、孤児院の門を開けたまま、俺は中へ突っ切る。行きでは付いてたはずの中の照明が消えている……?!


「ミレイアッ!!」


 勝手口を乱雑に開け放てば、真っ暗闇に灯る一本の蝋燭ロウソク

 カチッ、と照明が室内を満たし、色とりどりのメタルテープがクラック音とともに飛んでくる。


「たんじょびおめでっと〜レ〜イ〜」

「おめでとう、レイにいちゃん」

「レイ? あわててどうしたの?」

 と、何ら変わりない子供たちとエプロン姿のあかり先生。

 ……なんだ、きのせいか。 みんなありがとう。 

 

 ミレイアは真珠のようにまばゆい笑顔で、艶やかな金髪を揺らす。


「おにいさま、おたんじょうび、おめでとうございます!」


 ……照れるな。 ハハッ。 いやわかってたよ? 準備するのに俺が邪魔だったんだろ? わざわざ食材まで忘れたフリして。 買い物行かせてさ。 さぁ、食べよう? みんなの好きなシチューをつくろ?



「って、なんだこれは……」


 ーーパンッ。


 風船が割れるみたいに、あるべきはずの"未来"が破裂音を立てた。硝子の結晶体が砕け散り、破片が幾つもの風船を割ってゆく。


 ーーパンッ。パパンッ。


 抑揚はげしくさっきまでのが幻想だったと、酸鼻さんびな光景が胸を抉る。


「み、みんな……?どうしたんだ……? どうしてねてるんだ? そんなとこで……」


 ーーピチャッ。


 俺は全速力で息を切らし駆けた。おびただしい量の血で靴底が滑り、何度もよろめく。


「たのむ……ぶじでいてくれッ……ミレイア……?」


 そして、階段を上がってすぐ俺の顔は戦慄に歪む。汚物が胃液とともに込み上げ、口元をおさえる。

 ……そんなッ! 嘘だと、いってくれ。


 出窓から射す月光の元で、深紅が反射する。廊下の中央に眠るいたいけな人形。血色を完全に喪失させているのは、ミレイアだった。


 それはまるで、

『一枚の絵画』。


 人間ヒトは真実をこうも堂々と突きつけられると、あらがう気力も湧かないらしい。


 ミレイアに近寄り、俺は頭をそこから掬いあげる。甘美なシトラスシャンプーの香りがツンとする。溢れでた啼泣ていきゅうのカスが妹の頬を濡らす。


「……おにいさま?」


 それは、俺を絶望の縁から"凛"と救った。


 ……あぁッ。神様ッ!! 代わりに俺の命と引き換えでもいいッ! だから…。 だからッ!


「ミレイアッ!! 死ぬな……ッ!!」


「おにいさ、ま? いちどだけ……です……。 よく、きいてい、て……ください……ッ……」


 懸命に最後の力を使い果たさんばかりに、して、僅かに開かれた口元から鮮血がスーッと、透明な肌に垂れる。

 ……もういいんだ。 ミレイア? お兄ちゃんはずっとそばにいる。 これからも、ずっと。ずっと。


 この世で最も尊く、儚く、それを失うことに人間は戦々恐々とする言葉をミレイアは俺に残した。


「あいしていますわ……おにいさ……」


 ミレイアの首が力を失ったように横へーー傾いた。

 ……ッ?! なぁ、どうした? "ま"までちゃんといわなくちゃダメだろう? "ミレイ"ーー


「ヴァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!ーー」














「ちからがほしい……?」


 そんなとき、異界の秒針が無情なまでに、俺の時刻ときを進めたーー

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TC (テンペラー・コード)神々の系譜…知らざれし力たち とあラノ @rayy

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