第21話 エピローグ

 協会に戻って一番驚いたのが、リンがテレサニアを呼び捨てにしていたことだった。話によると、私が戻ってくるまでの間、毎日お昼は一緒にランチを食べて、夜は紅茶を飲んでいたらしい。すごく、すごく羨ましかった。

 もちろん私も帰ったその日からは二人と一緒にランチを食べて夜は紅茶を飲むことにした。

 それとは別の話になるが、テレサニアには散々小言を言われてしまった。

「まずは連絡の仕方から教育しないといけないようですね」

 連絡の教育が決定した。

「私の教育のせいでよく眠れたと聞きました。今度からもよく眠れるように教育時間を増やしましょう」

 オド!言わないように言ったじゃん!

 小言だけで約3時間。疲れてきたなあと思った時、不意にテレサニアに抱きしめられた。

「おかえりなさい、ユーイ。よく帰ってきてくれました」

 テレサニアの教育ならまあいっか。

「うん、ただいま。テレサニア。守ってくれてありがとう」

「これからもずっと、あなたと、あなたの帰る場所を守ります」

 北の国で起こったこともその瞬間は忘れてしまっていた。それくらい、幸福だった。

 テレサニアにこっぴどく叱られた後、リンの元へ向かうと、リンにも抱きしめられてしまった。

「おかえり!ユーイ!ずっと待ってたのよ」

「ただいま、リン。お土産あるよ」

 そう言ってゴーグルを渡す。リンがそれを見て首をかしげる。

「どう使うのかしら?」

「吹雪の時とかすっごく役に立つから、今度三人で北の国へ行ってみようよ」

「素敵ね。私、お弁当を作って持っていくわ。とびっきり豪華なのを作ってあげる」

「本当に!すごく楽しみだね」

「ユーイ」

「なに、リン?」

「守ってくれてありがとう」

 リンが私の頬にキスをした。

「きっと、私もユーイを守ってあげるからね」

「わ、わた……、私……、違うの……」

 今度はリンに私が抱き着いた。

「守れなかったの、私。たくさんの人が死んでしまって、私、守れなかったの」

 リンの胸の中で、子どものように泣きじゃくった。

「ううん、ユーイは守ったわ。東の国でも、私を守ってくれたじゃない」

「リン……?」

 見上げたリンの顔もまた泣き顔だった。

「思い出しちゃった。でも大丈夫。私にはユーイがいる。テレサニアもいるもの。お父さんとユーイが守ってくれたこの命をずっと大切にして生きていくわ」

「リン……!」

 記憶が戻ったんだ。できればもう思い出してほしくないなんて、勝手なことを考えていた。記憶が戻れば辛い思いをする。だから、もう辛いことは思い出さない方がいいと、忘れていた方がいいと、心のどこかで願っていた。

「ごめんね。私、お父さんを」

「ユーイ?」

「お父さんを守ってあげられなくて……」

「ユーイ!だめだわ。そんなに何でもかんでも背負ってしまったら」

 リンが怒ったのを見るのは初めてだった。

「あなただって大変な目にあってるのよ。それなのに、自分のことも顧みずに私たちを助けてくれようとしたわ。お父さんは死んでしまったけど、私はユーイのおかげでこうやって生きてるの。ううん、お父さんだって、私を守ろうとしてくれたんだもの。お父さんのことだって守ってくれたのと同じね。だからね、ユーイ。あなたは自分のしたことを悔いちゃダメ。反省はしていいかもしれないけど、自分のしたことにもっと自信を持って。自分のことも大切にしてあげてほしいの。だって、あなたは私の英雄なの」

「英雄……?」

「そうよ、ユーイ。あなたは私の大好きな友達で、英雄なの」

「そんな、私なんかが」

「ほら、またそうやって自分なんかがって言う。友達の言うことを信じてくれないの?」

 リンが頬を膨らませる。

 そうなのかもしれない。私はずっと自分を否定しながら生きてきたのかもしれない。

「ううん、リンの言うことなら信じる」

「よかったわ!」

「私がリンの英雄かぁ」

 ちょっとくらい、認めてあげないと自分が可哀想だよね。自分自身も守れずに、他人を守ることなんかできない。

「じゃあさ、リン。英雄としてお願いがあるんだけどいいかな」

「いいわよ。何でも叶えてあげる」

「リンが作ったご飯が食べたい。テレサニアにいっぱい叱られてお腹ペコペコなんだ」

 私が言うとリンが笑った。

「分かったわ。とびきり美味しい料理を御馳走してあげるわね!」





 協会に戻ってから一週間後、私はテレサニアに連れられて協会の長、クロックエンドの部屋まで来ていた。

「あの……、私、どうしたら……」

 部屋の前でオロオロとしているとテレサニアがため息をついた。

「胸を張っていなさい。クロックエンド様は今回のあなたを高く評価していますから、何も心配することはありません」

 そう言ってドアを開けると、ベッドの上に十歳くらいの少年が座っていた。

 実際は少年ではなく、それがクロックエンドであると、事前にテレサニアに教えられている。

「やあ、ユーイ。北の国ではご苦労様だったね。報告はちゃんと聞いてるよ。本当によくやってくれたね。助かっちゃったよ」

「は、はい。ありがとうございます。クロックエンド様」

「クックでいいよ?リンはそう呼んでくれてるけど?」

「え!リンが!」

「……ユーイ……」

「ごめんなさい、テレサニア……。あの、クロックエンド様、はじめまして」

「え、すごいね、君。ちゃんと挨拶するんだ。ふーん?マナのやつとは大違いでびっくりだ」

「マナを知ってるんですか」

「そりゃね、知ってるよ。おっと、こちらも挨拶しないとね。僕はクロックエンド、知っての通り、協会の長なんていうものをやらせてもらってる。一応君たち魔法使いのトップってことになるのかな?まあ、実力的にはテレサニアの方が上なんだけどね。年の功ってやつ?」

「は、はぁ……。それであの、今回はどうして呼ばれたんでしょうか……」

「ん-、流石に今回の君の活躍はね、放っとくのは忍びないというか。ここまでやってもらっておいて、はいご苦労様でしただけじゃちょっと申し訳ないからね。だから褒美をとらせることにしたんだよ。どう、トップっぽいでしょ?」

「クロックエンド様」

「はいはいテレサニア。っていうか下がっていいんだよ?僕はユーイと話をしてるんだし」

「私がいないと話しが脱線した時に止める者がいなさそうなので」

「えー、テレサニアって保護者?ユーイも大変だね」

「はい」

「ユーイ」

「大変じゃないです」

「あはは。で、さ、ユーイ。今一番欲しいものは何だい」

「欲しいもの、ですか」

「何でも言ってごらん」

「私が欲しいものは……マ」

「よし分かった」

「え」

「君には南の国、リゾートパスをあげよう!」

「ええええぇえ??」

「大丈夫。南の国のサウザノスは魔法使いが国王をしてるところだから、安心安全!しかも、温泉もたくさんある。まさに夢の国だよ」

「あ、あの」

「クロックエンド様!ユーイに何をさせるおつもりですか?」

「何ってバカンスだけど?」

「えっと……」

「じゃあユーイ、二週間後には行けるように手配しておいたからよろしくね」






 南の国編につづく

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最後の魔法使い。(北の国) あかる @akarun

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