第18話 叶わぬ願い
土窟内を隅々まで照らしていたランピーロの
「それにしても、事前にランピーロの様子を見に来た時、ここの存在に気付きませんでした。まるで今日、特別に用意された場所のようでしたね」
アデレード先生が指先から細く青白い光を出現させ、それを使い魔法陣を描きながら楽しげに呟く。
その周りを数人がランタンで照らし、地面がより見やすくなるように補佐している。アゼツも興味があるようで、上から覗き込んでいた。
それを眺めながら、サクラはラウルの黒いローブを軽く引っ張り、みんなから離れる。
「どうした?」
「あのさ、前にした約束ってどうするの?」
ラウルから提案してきた事なのに一向に何も言ってこないので、こちらから聞いてみた。
それなのに、彼は大きな耳をぴくりと動かし、困惑した表情を浮かべた。
「あー……。それ、なしで」
「えっ!?」
「どうしたの、サクラ?」
「な、何でもないよ!」
予想外の返事に、サクラの大きな声が響く。それに反応したイザベルが地面を照らすランタンを持ち上げ、怪訝そうな顔をした。それに慌て、作り笑いをするサクラの返事に一応は納得してくれたのか、再び彼女は魔法陣を描く補佐へ戻った。
「でもさ、イベント決定しちゃったから、やるしかないかも」
「イベント?」
サクラは声の大きさに気を付けながら、見上げるようにラウルへ説明する。
「約束した日、ラウルが教室から出たあと、徘徊する者との対峙ってイベントが決定されたんだ」
「……取り消せないのか?」
「うん。はいもいいえもなかったから、強制イベントだと思う。だからさ、私はどうすればいいの? ラウルは誰にも知られずに解明したそうだけど、ちょうどみんなもいるから相談する?」
「いや……、それは俺がどうにかする」
ラウルは銀の尾をゆらゆらと揺らしながら、眉間のしわが深くなった顔を前に向けた。
「ねぇ、さっきから2人で悪巧みでもしているの?」
いつの間にか近くにいたノワールがランタンを顔のそばに掲げ、うっすら微笑みながら近付いてくる。
それと入れ替わるように、ラウルが歩きだした。そして意外にも、彼が向かった先にはリオンがいた。
あれ?
仲直りしてたの?
今日のイベントでは関係を修復するまでには至らないと、サクラは考えていた。だが、取り越し苦労だったようで、安堵の息をつく。
そして、返事を待つノワールへ笑みを向ける。
「えっとね、アゼツや今後について話したい事があるから、明日、みんなで集まろうと思って」
「何かわかったの?」
ラウルが自分でイベントを解決しようとしているのでそれは伏せ、サクラは当初の予定を伝える。
すると、ノワールは期待するような眼差しを向けてきた。
「わかったっていうか、アゼツの事をもっとよく知ってもらおうって思って。ちょっとね、誤解されやすいとこあるから。あとね、みんなが納得する願いを見付けたいから、みんなの考えを知りたい」
「誤解、ね。まぁ、詳しくは明日にでもわかるだろうから、楽しみにしておくよ」
もう興味がないかのようにあっさりとノワールが会話を切り上げ、サクラから離れる。
アゼツの事、ノワールは警戒したままなんだろうな。
彼の背中を見送ると、アデレード先生が魔法陣を描き終えたようで手招きしているのが見えた。
「リオンくんはまた自身だけで移動しますか?」
「いえ、もう急ぐ用事はないので一緒に行きます」
リオンがはっきりとアデレード先生へ言い切りると、彼は隣にいたラウルへ何かを耳打ちしていた。
***
昨晩、寮へ戻ってすぐ、アゼツから男の子達へ話したい事があると、予定を伝えた。
そして今朝、サクラは朝食を終えてすぐに集合場所へと向かった。
本当なら誰にも聞かれる心配のない自室で話したかったのだが、寮には魔法が施され、異性は入れない。だからサクラ達の教室に集まり、それぞれがサクラの机の周りを囲むように座っている。
「さーて、ぼく達に話したい事って何かな?」
昨晩のランピーロを見たフィオナがとても喜んだ事で、いまだに上機嫌なクレスが明るく話題を切り出してきた。それにより、自分の席に座るサクラの両隣のリオンとラウルがこちらに顔を向け、前の席を少しだけ前方にずらし、椅子をこちらに向けて座るクレスとキールとノワールの視線も集まる。
「えっと、まず、アゼツの事なんだけど、彼には使命があって、それで私達を助けに来たんだって。って、これはもう知ってるかもだけど。でもね、話せない事もあって、みんなはアゼツに対して警戒心もあると思う。それでも、アゼツは私達の味方だよ。だけどね、人間でもゲームのキャラでもないから、私達の考えがあまりよくわからないみたいなの」
サクラの机の上にちょこんと座るアゼツが続く言葉を紡ぐ。
「人間界の事はたくさん勉強してきました。ですから知識はあるんです。でも直接話すのは初めてで。だからこそ、サクラと話して、ボクの考えが少しだけ変わりました。当初のあなた達に伝えた『少女と結ばれた者だけは救えます』という言葉。これをまずは撤回します」
アゼツの言葉に対してみんなが驚くかと思っていたのだが、彼らに変化はなかった。それどころか、冷めた目線を送ってきたように見え、サクラは思わず口を開く。
「みんな、どうしたの?」
「その言葉を撤回されたところで、自分の考えは変わらない。だが、続きがあるのなら聞こう」
キールが椅子にもたれ、腕を組みながらアゼツに目線を戻す。
「ありがとうございます。サクラと話し合った事なのですが、ボクとサクラに、あなた達の事をもっと知る機会をくれませんか? 時間はあまりないかもしれませんが、その上で、ここにいる全員が納得する願いを見付けたいんです」
アゼツの声から、彼がとても真剣に話しているのがわかる。しかし、それに対してみんなの返事がない。
だから助け舟を出すつもりで、サクラが発言した。
「願いを叶えるのは1度きり。だったらみんなが助かる方法を私は願いたい」
「……どうして?」
思案するように顎に手を当てていたノワールが、彼らしくない無表情な顔をこちらに向けてきた。
「まだね、あんまりお互いの事を知らないけど、私は、その、みんなの事、友達だと思ってる。だからね、その友達を助けたいって思うのは、普通の事じゃない?」
友達と伝えた事に恥じらいながらも、サクラは続けて言葉を紡いだ。
「だからこそ、みんなが想い人と結ばれてほしいとも願ってる。そしたらさ、このゲームと違って、消える心配のない現実の世界でずっと一緒に生き続ける事もできるでしょ? ってまだ、女の子達の意見は聞いてないから現実の世界に行くのはどうなるかわかんないけど」
一生懸命に話せば話すほど、みんなが唖然とした表情になる。その事に不安が募った時、アゼツが振り返った。
けれど彼の顔は、みんなの浮かべた表情よりも酷いものだった。
「サクラは、そんな事を考えていたんですか?」
「えっと……、変かな?」
「変というか、ボクが任されているのは、『サクラと魂が宿った攻略キャラだけ』です。なので、魂のないゲームのキャラは現実世界には連れて行けません」
「……え? 何でも叶えてくれるんじゃ、ないの?」
「確かに何でも叶えます。けど、肉体を創る事ができても入れる魂がない。こればかりはどうする事もできないと思います」
思い描いていた願いが簡単に砕かれ、サクラはアゼツの言葉をなかなか飲み込めず、押し黙った。
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