物理の教科書シリーズ

ごくさん

【自伝】私は世紀の大発見をしたかもしれない

2001年、私はいつも通り物理の教科書で量子力学論の研究をしていた。しかしある日、とある現実味のない出来事により、私の人生、そして世界が永久的に変わったと言えるだろう。それほど驚愕な発見をした。それは既存の理論を塗り替えるほどのものであった。今では当たり前のように教科書にも載り、幼児らはさらなる理論の発展に向けて議論し合うが、当時では学会から大バッシングを受けてしまうほどのものであった。

それは残暑の少し肌寒い夕暮れ頃であったか、研究室にまるでストロンチウムの炎色反応のような澄んだ橙の燈がSiO2から差し込んでいたが、その時起きたことは今でも鮮明に記憶している。

――実験内容はこうだ。箱の中に物理の教科書一冊とと標準状態で置かれたOg(気)放射性異性体22.4Lを入れる。そうして、それは約5730年であろうか、長すぎる短すぎず、ある程度時間を経たせると、Ogは五割の確率でγ崩壊し教科書や箱、そして私や研究所までもを跡形もなく吹っ飛ばす。ひどく危険な任務である。しかし、もう五割の確率で我らは危険なく生存できるわけだ。その際、教科書もやはり無事なのである。

あなたは、1935年にオーストラリアの物理学者シュレティンガーことシュガちゃんの行った思考実験を存じるだろうか。彼女は、置き手紙を机に放置し、二つの同一のダンボール箱を用意し、うち一つには彼女自身が入り、もう一方には橋本環奈を入れた。そこで、彼女の同僚の若きし頃のノーベルが置き手紙を読むように仕込む。その置き手紙には、こう書かれている。

『目の前に、ダンボール箱が二つ置いてあるだろう。片方には私が、もう片方には、橋本環奈が入っている。この時、あなたが私を選ぶ確率は50/50。これはつまり、箱を開け少なくとも片方を観測するまで、私は私と橋本環奈の50/50の不安定な状態であるということ。ということは私の半分は今橋本環奈であり、すなわちこれをシュレティンガーの橋本環奈と呼ぶこととする。』

ちなみにこの置き手紙を読んだノーベルは真っ先にかつ的確にシュレティンガーの入っている箱を広い荒野に移設し、事前に点火された珪藻土の混ぜたニトログリセリンとともに置いてきぼりにしたとかなんとか。

それはさておき、シュレティンガーのような名声が欲しかった私なのだが、彼女のような実験を続けて一光年、ようやく世界が怒りで震えて涙も辞さない事象が生じた。それは、たしかにOgはγ崩壊せず、辺り一面の砂漠の大自然は静けさを保っていたものの、箱を興味半分で開いてみると教科書が消滅していたわけである。それはまるで、教科書だけが抜き取られていたのかのように、はたまた、近所の公園へ散歩に行ったのかのように、つまりOgには変化なしで、教科書だけが跡を残さずに消えてたのである。

これを見た時一瞬

『手紙も残さずに行方を晦ますとは、けしからん』

と憤慨し辺り一面にドライアイスとトリニトロトルエンを撒こうとしたが、なんとか自我を取り戻し、再度箱の中身を慎重に視察した。

『これは世紀の大発見ではないか』

注意深く、忍耐強く観察をしていれば、幸が訪れるとは言ったものだ。その日からウキウキワクワク気分になったのは言うまでもない。

毎日毎日、同僚たちに

「これが本当の紙隠しってね!HAHAHA」


しかし私はここでは終わらない。そこで私は考えた。藤村新一やヘンドリック・シェーンなど初め、私の同僚らが再現性のある実験にしようと無数のγ崩壊爆発し、研究所周りの環境が間氷期に久しく砂漠化するまでの期間であろうか、それ程長い時間考えた。まるでアルゴリズムを知らないあのお姉さんのように、長い年月、いや、月日を駆けて理論を考え抜き、厳密に新理論を構築した。そして最終的にこのような結論に到達したのである。

それは、『教科書は観測不可能な空間へ移行したのではないか』というものである。質量保存の法則、チンダル現象、はたまたヘスの法則や不気味の谷現象…現代物理学における数多くのの法則や現象を統合してようやくたどり着いた理論である。実際、算数的にも整合性が取れ、これは一次元や二次元などの多次元の存在を保証する大理論なのである。しかも、物体が実際に移行するのを観測しているがゆえ、それら次元への移行が人間にも可能である、ということまでもが証明されたのだ。

この実績には、かの有名なティコ・ブラーエをも賞賛するほどである。それほど、この理論は完璧で最先端なのである。


こうして、私は世紀の大発見を発見した発見者と称されるようになったのである。

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物理の教科書シリーズ ごくさん @gokusan

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