ストーカー、やめる気あります?

 なぜか無駄に傷つけられたものの、困っているのは確かなようなので一応了承しておく。出来るだけ自分に抑圧をかけたいらしいので神崎兄妹にも実は付き合っていないとばれたくないから内緒にしてほしいといわれた。


 わりときついことは言われたが、普通に人生を送っていたら俺では近づくこともできないような人物なのだからいい経験だと思っておこう。


「それにしてもストーカーって何をしているんだ?」


「ちょっと家までついて行っちゃったり、声が聞きたくてヒミツで声を聞いちゃったりっていう感じ」


「オブラートに言っているけどガチの奴じゃん」


 ふと、ある疑問が湧く。


「もしかして、今ストーカー相手が店内にいたりする?」


 おーい。目線が合いませんよ?


 おかしいと思っていたんだ。あそこまで目立つことを嫌がっているのは不自然であると。


 しかも、座る位置も奥のほうに行きたいとわざわざ店員に告げていた。


「誰なんだ?」


 恐る恐る、小さく指で指した方向を見る。


 そこに座っていたのは、さっぱりとした髪の毛をセットしていて、笑顔も爽やかな青少年だ。彼女といるのだろうか、女のこと一緒に楽しそうにお茶をしている。レベルは違うが成人先輩のほうが好みと言っていただけあって割と面食いなのだろう。


 ストーカーをやめたいという気持ちで付き合おうとしているのに現在進行形でストーキングをしていてどうするんだ。


 なんだか見たことがある気がする。


「もしかしてうちの学校の生徒か?」


「そう、そして元カレなの。まぁそんなに長い間付き合ってないけどね」


「それにしても気づかれている感じでもないな。仲よさそうにしているし、盗聴とかもばれたりしていないんだろ」


「もちろんよ。だっていろいろな人に仕掛けてたくさん経験を積んで試行錯誤してきたんだからね」


「初犯じゃないのかよ」


 いっそ見つかったほうがいいんじゃないのか。生徒会の人間が盗聴を仕掛けているなんて。


 それにしても止めるつもりで来ているのに現在進行形で盗聴しているなんてどんなやつだ。絶対やめる気ないだろ。


 涼しい顔で紅茶を飲んでいる。


 ストーカーってざらにいるものなんだなと麻痺してきた。


「知っていたの」


ぽつりとつぶやく声。


「?」


「付き合っているときから私が一番ではないってこと」


「じゃあなんで」


「自分がおかしいってわかっているけれど、私、面食いなの。なんだかんだ性格がいい人が一番っていうのはみんな共通しているでしょ?」


 確かによく聞く。第一印象は多少の清潔感と顔が必要であるが結局モテるのは顔よりも性格がいい人なのだ。もちろん顔もよく性格もいい人が一番人気も出るだろうが。


 自分の周りにいるイケメンはイカレシスコンしかいないから分からないが。


「顔がよくないと恋愛対象にならないの。そしてどんな性格でも私は受け入れてしまう。その噂が流れているから近寄ってくるイケメンは適当に遊んで捨てるの」


「なるほどなぁ・・・それで俺と付き合ったことにしていればイケメンも近づいてこないし自分も制御できるしいいってことだな」


「うん。あんたに一ミリも興味ないから」


おおっと?無駄に悪口。


「ということは成人先輩はどうなんだよ」


「そんなのドストライクに決まってんでしょあんた馬鹿じゃないの話聞いてた?」


「だよな。どこから見ても美形だしイカレシスコンなことを差し引いたら最高だよな」


「あんた見る目あるじゃない」







「なんだか、すごく話が盛り上がっているみたいなんですが」


 可愛く頬を膨らませている妹の顔についているパンケーキをそっと指でなぞった成人は、彼女たちのテーブルの下に設置した盗聴器で会話の内容を聞きながら微笑んだ。


「大した話やないから安心し」


(それにしても彼もオレが聞いとるってことがわかっとるはずやのにこうして堂々と悪口のオンパレードっていうんは単なる嫌がらせなのか聞かれとることを忘れとるんかどっちなんやろうか)


 そう思いつつも目の前でパンケーキを頬張っている妹を見ると、どうでもよくなってしまった。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

一億円で猫耳少女に買(飼)われています いかそうめん @ikasoumen

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ