世界が終わる1時間前に

Morua

世界が終わる1時間前に

この世界はあと1時間で終わる。巨大隕石が衝突するからだ。

みんな家族と一緒に過ごしたり、恋人と愛を確かめたりしていた。

けど俺は幼なじみで親友のこいつと今、地元の海を海岸で見ている。


「なんで最後にお前と海なんか見てんだよ」


そんなことを言われた。

確かにそうだな。


「まあ、いいじゃん?映画みたいで」


「それもそうだな」


お互いに恋人もいないし、家族にも許可を取ってある。こいつもよく軽々と来たもんだ。


「おお、あれかな?」


「多分な」


こいつが指を指す先には赤く光る隕石があった。

あまりのデカさに、ここからでも普通に見えた。


「まあ、あれだなあと1時間なら映画見てもよかったかもな」


「映画なんて見ても最後まで見れんだろ」


「そうだな」


こんな状況でもこいつは笑いながら冗談を言う。けど俺はしんみりしたのは嫌いなのでこっちの方が楽だ。


「あんな綺麗なので地球終わるんだな」


「あれに殺されるなら本望かもな」


こいつは隕石を見ながら綺麗だと言った。

けど、紅く光っている隕石は綺麗だとは俺も思った。


「とりあえずジュースでも飲むか」


「そうだな」


海に来る途中でコンビニに寄っていた。

コンビニはもぬけの殻で、好きなものを持って行ってくださいと書置きがしてあった。しかし俺らはしっかりお金を置いた。こいつ曰く、あの世に行った時に天国に行きたいからだそうだ。

本当に変わった奴だ。


「おつかれ」


俺はこいつにペットボトルのジュースを向けた。


「はいおつかれさん」


そう言ってペットボトルで乾杯をして、少しぬるくなった炭酸ジュースを流し込む。

いつもの味だった。


「味変わんねえな」


「そりゃそうだ」


どうやらこいつとの感性はほぼ同じらしい。

昔から好きな玩具も、好きな食べ物も、好きな飲み物も、なんなら好きな映画やドラマ、アニメまで同じだ。推しキャラで語り合ったのもいい思い出だ。


「しかし…むさ苦しいな華が無さすぎだろ」


「ま、そんなもんだ」


「違いねえや」


お互いに彼女がいない、つまり男2人で海を見ている訳で、海に俺達以外居ない訳で。


「でも男ってこう言うの好きだよな」


「確かに」


普通の高校生活を送っている俺達は、夢がある訳でも無いのでこうしているだけだが…確かにロマンはある。


「そういや、お前やり残した事ある?」


「童貞捨て忘れた」


「諦めろ」


「おお、辛辣ぅ…」


聞いた俺が馬鹿だった。でもそんな感じの答えが返って来る事は予想してた。


「んー、あと強いて言うならサメを食べてみたい」


「あー、確かにどんな味か気になるな」


「だろ?」


こいつといるとこのまま世界が終わってもいい気がして来た。この何気ない会話のまま終わりたい。


「おお、すげえ隕石結構近くなってる」


「マジか…ホントだ」


隕石が近くにあるかの様な存在感だった。

ほぼ地球サイズの隕石があと少しでここに着地する。そうなったら一瞬だろうな…。


「逆にお前やり残した事無いのか?」


「んー、俺か…」


俺は少し考えた。

地面にゆっくりと座り、頭を捻る。


「大体お前と同じだわ」


「やっぱりか…」


少しニヤけた顔でこいつはずっと海と隕石を見ていた。

よくも飽きないものだなと感心しながら俺はその隕石を見る。


「人生何があるか分かんねえな」


そんなことを言い出した。当たり前の様でみんなそれを分かっていない…と言うより実感が無い。


「そうだな…」


けど俺は人生何があるか分からないのには賛成だ。実際起こってる事が理解不能だからな。

俺達は目を合わせること無く、ただ海と隕石を見ていた。別に面白い訳じゃないし、楽しい訳でも無い。

ただ親友と海を見て人生の終わりを迎えるだけだった。

隕石は砕けて散っていく。それが隕石が落ちる場所の中心点から少しづつ広がって無数の光り輝く石が近場にも表れる。


「そろそろ終わりか…」


「そうだな…」


さすがにここから生きては帰れないとこいつは悟った。なのに何故か酷く落ち着いている。


「最後くらい感動的に終わりせてもいいかもな」


「感動的?」


こいつは目線を変えずに、俺に伝えたい事をペラペラと喋り始めた。


「幼稚園の頃から一緒でよ、毎日バカして…毎日遊んで、時々喧嘩してよ…」


「そんな事もあったな…」


俺もこいつに目線を向けず、ずっと海をひたすらに見ていた。少し潤った瞳を見られないように。


「こんなに同じ感性持った俺らでもさすがに好きな人は被らなかったけど」


「お互いに彼氏持ちを好きになったけどな」


無駄な感情表現はいらない。俺達に必要なのは最後まで、スマートに…。


「今考えると本当にバカだよなぁ…ここの海に何回飛び込んで、何回怒られたか…」


「だな…」


1度揺れ動いた心がスっと落ち着きを取り戻し、もう一度海を見る。

そこには赤い空とそれに照らされる海が美しく見えた。


「だけどさ…楽しかった」


「…だよなぁ…」


頭上に隕石が近付いて来た。多分あと数分で俺達に命中する。


「俺さ、お前と親友で良かったわ」


「ふっ、キモイがそれには同意だ」


上から来る隕石を少しだけ見た後、また海に目線を戻す。

すると、こいつはこう言った。


「また遊べたらいいな…」


「またって…いつまた会うんだよ」


「それもそうだな…でもなんか、お前にまた会える気がする」


そうだな…もしかしたら近いうちに、なんなら終わった瞬間に…。


「次会う時には美少女との合コンじゃねえと許さんぞ」


「次会うだけなのに条件厳し…まあ気が向いたらな」


「気長に待ってるわ」


そして少し目線をお互いに向ける。

すると、目だけを合わせ少しの言葉だけ交わした。


「またな」


「おう」


隕石の衝突による爆風が俺達を包み込んだ。



そして俺はまた1日前の朝に自分の部屋で目が覚めた。

この光景を見るのは何回目なんだろうな…。

この不思議な現象を発症してから何千回、いやもしかしたら何万回繰り返して来たかもしれない。

こうやって親友と死ぬ日もあれば、交通事故や通り魔に刺されたりした事もあった。

俺はこのループを抜け出す方法を何故か知っていた。

それは人間が腹を空かせる様に自然と分かってしまった。だからこうやって何千回も何万回も繰り返している。


「なんで俺で、お前なんだろうな…」


そんな独り言を言いながら溜めていた涙かポタポタと自分の布団に落ちる。


「やっぱ俺には無理だよ…お前を殺すなんて…」


こうして俺は今日も別の方法を探し続ける。何千回も、何万回も。

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