とある発明家の法則
竹中凡太
とある発明家の法則
朝、六時。サダは聞きなれた目覚し時計の音ではなく、時ならぬ電話のベルで目を覚ました。元来が無精なものだから、ベッドから起き上がるようなことはせず、腕だけを受話器に伸ばす。
「あなたのお掛けになった電話番号は現在使われておりません。二度とお掛けにならないで下さい。」
相手を確かめもせずに無愛想にそれだけ言う。電話の相手が誰であるか、なんてことにはこれっぽっちも関心がないらしい。間違いない。彼女はいないクチだ。
「サダ、寝てる場合じゃないぞ。」
どうやら電話の向こうの相手は、サダのことをよく
「今世紀の大発明だ。早くこい。」
言いっぷりこそ落ち着いてはいたが、サダにはよく分かっていた。こういう時のジョンは興奮していて、落ち着いて周囲の状況に気を配るなんてことはできなくなっている。もともと、周囲のことに気を配るような細やかさは持ち合わせていないのだ。こんな朝早くに電話をしたら迷惑かもしれない、なんて気遣いは頭の片隅にも存在してはいないだろう。サダは、このまま受話器を置いてしまいたい衝動にかられた。が、一瞬の躊躇の後、結局ジョンの言う『大発明』に対する好奇心が勝ったようだった。受話器を持ったまま、それでも冷静にサダは指摘した。
「大発明?その台詞は今年に入ってから三度は聞いてるぞ。」
「寝ぼけているのか?今度こそ正真正銘の大発明だ。とにかく、電話では話せない。早く来い。お前は歴史の立会人になるんだ。」
それも三度目の台詞だよ、サダは今度は口に出さなかった。今年に入ってからの二回の経験で、それが無駄なことだというのを知っていたからである。この一点においてサダはジョンよりも賢かった。
「判った。」
ともあれこのまま黙っていては完全にジョンにペースを握られる。そうなれば何をわめき出すか判らないので、・・・もとい、判るので、サダは早口にまくし立てることにした。
「では、こうしよう。僕は後二時間ばかりゆっくりと眠ってから、目玉焼きとフレンチトーストで優雅な食事を済ませ、ジャズでも聴きながら食後の紅茶をたしなみ、英字新聞をたっぷり堪能し、しかる後に急いでそちらに伺うとしよう。」
そこまで言うとジョンが何か言おうとしているのを無視して電話のモジュラーからコードを抜きとった。これで、これ以上、電話が彼の安眠を邪魔することはない。
三時間後、心地好く目覚めた彼は、目玉焼きとフレンチトーストで優雅な食事を済ませ、ジャズを聴きながら食後の紅茶をたしなみ、英字新聞をたっぷり堪能し、しかる後にゆっくりとジョンの家へと向かったのである。
彼の、今年に入ってから三度目の愚行であった。
サダがようやくジョンの家に着いたときには、すでにお昼も過ぎようとしていた。ジョンが不機嫌だったことは言うまでもない。
「随分と早かったじゃないか。英字新聞は読んでこなかったのか。」
「親友を待たせちゃいけないと思ってね。」
ジョンが嫌味たっぷりに言うのを軽くかわしながら、サダは部屋の中をざっと見回した。
「それはそうと、噂の大発明はどこにあるんだ?」
ジョンの部屋はいつも通りでそれらしい代物は影も形もなかった。
「誰かさんがあまりに遅いので、駅前まで迎えに行ったのさ。」
ジョンは澄ました顔でそう言うと、新しい煙草に火を点けた。既に目の前のジャンボサイズの灰皿は煙草の吸い殻に埋もれかけている。ジョンがこの灰皿の恨みを晴らそうとしているのは明らかだ。
「謝る。すぐに来なかったのは悪かったよ。でも、あんなに朝早く電話してくるお前も悪いんだぜ。」
サダはあっさり負けを認めた。これ以上ジョンを怒らせても面倒臭いだけだった。
「敬愛すべき友に真っ先に知らせたかったこの気持ちを解ってはくれないのかねえ。」
「お前には 『時を止められる腕時計』事件の前科もあるからな。」
「サダ、お前はまだ俺を理解していない。天才発明家は二度も過ちを犯さないものなんだよ。」
「なら、間違いない。お前はマッドサイエンティストだな。」
そう、いつだったか。サダは時を止められる腕時計なるものをジョンから見せられたことがある。この時計、ジョンの発明品にしては珍しく、見事に時を止めてみせたのである。である、が、ジョンとサダの時も止まってしまい、時計の電池が切れなければ永遠にそのままだったに違いない。それ以来サダはジョンの発明品にはまず懐疑的になることにしている。生活の知恵と言ってもいいだろう。
「まぁ、いいさ。百聞は一見に如かずだ。発明を見せてやる。さあ、行こう。」
ジョンはそんなサダの思いにはまったく気づかずにサダを促した。それを聞いたサダがにやっと笑って言った。
「駅前にかい?」
サダが連れてこられたのはもちろん駅前ではなかった。ジョンの家の裏庭である。なるほど。ここなら、道路からも周囲の住宅からも見られる事なく、つまりは静かに発明に没頭できそうだった。果たしてそこには大がかりな装置と思われるものが鎮座していた。
「随分と大掛かりなんだな。」
ザダは素直に思ったことを口にした。サダが感銘を受けているとでも思ったのか、ジョンは満足そうに頷いている。サダは続けて言った。
「確かに、世の中の役に立ちそうなものを開発したな。」
「発明と言ってくれ。」
ジョンはそう訂正した。サダはやや怪訝そうに、でも、ジョンを気遣うように言った。
「まあ、発明、と言えば、そう言えなくもないな。なにより、確かにこれは有用だろうな。」
「サダ、お前にも判るか。」
と、満足げな笑みを浮かべるジョン。
「そりゃ、まあ、な。」
と、ジョンの反応に比べてやや感動がうすい様子のサダ。発明品を高く評価されたと得意げになっていたジョンの表情は、続くサダの言葉で一瞬のうちに消え去った。
「コンピューター制御の温室を開発したんだろ?」
ずっこけているジョンを尻目にサダは一人感心している。
「最近の天候不順は、農作物に深刻な影響を与えているからなぁ。この装置を増産ベースに乗せることができれば、農業事情も大きく変わっていくかも知れんな。それにしても、お前にしちゃ、やけに実用的なものを発明したもんだな。まあ、こうなると、『発明』というよりはやっぱり『開発』って言うほうがしっくりくる気はするがね・・・」
「違うっっ。」
サダの精神攻撃のダメージからやや回復したジョンが短く叫んだ。それを聞いたサダが訝しげに聞く。
「違う?じゃあ、お前はこれがコンピューター制御のでっかいビーカーだとでも言うつもりか?そいつは今までのガラクタよりも役に立たないぞ。悪いことは言わないから、今からでも温室に作り変えたほうがいい。」
「そうじゃないっ。こいつはビーカーなんかじゃないっ。」
「なんだ、やっぱり温室か。」
「温室でもないっ。」
そこで、サダはちょっと眉をしかめて、心底不思議そうに言った。
「まあ、確かに温室にしてはちょっと小さめだな。人が一人ようやく入れるかどうか、くらいだもんな。開発中だからこのサイズなんだと思っていたが、お前はこのガラス張りの円筒形の小部屋みたいな代物は温室じゃないと言う。」
「そうだ。ましてやビーカーなどでは、断じて、ない。」
「ならば、だ。」
サダは『ならば』を無意味に強調しながら、至極真面目にジョンに尋ねた。
「お前はこの温室をいったい何だというつもりなんだ?」
「だから、こいつは温室なんかじゃなくて、瞬間転移装置なんだっ。」
ジョンは吐き出すようにそう言った。そして深いため息をつくと、しみじみと言った。
「お前と話すと何故いつもこうなるんだ?」
が、その呟きはサダには届かなかったようである。これはジョンにとって幸いなことだった。先刻のような進展のない会話は好んでしたいものではない。
「瞬間転移装置、ねぇ。」
サダはまだ要領を得ない顔で問題の発明品を眺めている。
確かに。言われてみればそう見えなくはない。二メートルほどの高さの硝子張りの円柱状の小部屋が二つ。二つの小部屋の間には三台のモニターにキーボードが付いている制御装置と思しき機械がその存在を主張している。小部屋と制御装置は複数の色とりどりのケーブルで繋がっていた。片方の円柱を送信機、もう片方の円柱を受信機、と考えれば、どっかの三文小説に出てきそうな瞬間転移装置とそっくりである。
まだキツネにつままれたような顔をしているサダにジョンが説明を始めた。
「向かって右が送信機。左が受信機だ。ケーブルには光ファイバーケーブルを採用した。つまり一般的なネットワーク回線がある場所なら、どこにでも設置できる。装置が設置されている場所の間でしか使えないが、装置が普及して自動販売機みたいにあちこちに設置されるようになれば、大概の場所には何処でも一瞬で行けるという代物だ。これを大発明と言わずして何と言う気だ。さあ、何か、聞きたいことは?」
どうだ、と言わんばかりのジョン。サダに余計なことを言う間を与えることなく、一気にそこまで言い切った。
「動くのか?」
サダは一言聞いた。なるほど、尤もな質問である。いかに威張って見せても張り子の虎では仕方がない。
「動くよ。」
ジョンは、にやっと笑って短く言った。
「多分ね。」
「いやだ。」
サダは瞬間的にそう言った。非常に嫌な予感がした。ジョンが何を言い出すか、経験上よくわかっていた。この流れに乗ってはいけない。きっとろくなことにならない。それだけは確かだ。
「僕はいやだからな。」
サダはもう一度念を押した。
「俺はまだ何も言ってないんだけどなあ。」
ジョンはすっとぼけた。それも、蛇を生殺しにして遊んでいる小学生の目で、だ。
「いーや、ジョン。お前は僕に実験台になれ、と言うんだ。そうだろう?」
ジョンは今度は目を丸くして見せた。
「人聞きの悪いことを言うなよ。俺はお前に瞬間転移装置を一番最初に使わせてあげようと思っているだけなんだから。」
「一緒だっ。僕は絶対にいやだからな。」
今度ばかりは絶対に実験台にはならないぞ、サダは心に堅くそう誓った。
嬉しそうに発明品を操作しているジョンを硝子越しに見ながら、サダは自分の置かれている状況を夢でも見てるような気持ちで見つめていた。サダがいるところは、言わずと知れた瞬間転移装置の送信機の中である。
何故いつもこうなるんだろう。
その疑問は、テストで悪い成績を取った生徒が次回こそは頑張るぞ、と言って結局悪い成績を取ってしまったときの疑問と、本質的に同等であった。考えるだけ無駄である。そういう運命になっているのだ。
そう言えば、何処かで電送実験に失敗してハエ人間を造っちゃった馬鹿野郎がいたなー。
サダはボーっと考えてから、正確にコンマ五秒後、慌てて辺りを見回した。もし、ここにハエが紛れ込んでいたら?ハエならまだしも、もし、ゴキブリなどが紛れ込んでいたら?考えたくもないが、もし、その両方だったら?
あまりにバカバカしくて同情すらもされない姿になってしまっている自分を想像して、背筋に悪寒をはしらせる。
そんなことはないはずだ。自分の盟友を信じろ。親友のジョンの発明なんだぞ。思えば思うほど、不安はつのる。
「よし、データ入力完了だ。」
ジョンがそう言ってサダを見る。なんだかとっても嬉しそうだ。誰にでも経験はあるはずだ。新しいおもちゃを買ってもらった子どもがそのおもちゃを初めて開けるときというのは、たいてい嬉しそうな顔をするものなのだ。
「じゃあ、転送を開始するぞ。」
ジョンがそう言った瞬間、サダの目の隅をかすめるものがあった。あれは、そう、百足だ。百足と書いてむかでと読む。
「ちょっと待て。」
慌ててサダが言った。
「もう遅い。」
ジョンが、何を今更、と言わんばかりにサダを見た。
「百足がいるんだ。こいつを外に出さないとエライことになっちまうだろう?」
ジョンは、 一瞬考えてからサダの言ったことの意味を悟ったらしく、クククと笑った。笑われたサダが不機嫌な顔になると、今度は声を立てて笑いながらこう言った。
「どこに百足がいるんだって?」
「おいおい、その目は節穴か?そこを見てみろ、でっかい百足が…」
サダは辺りに視線を泳がせる。おかしい、さっきまで確かにいた百足がどこにも見当たらない。肝心なときにどこにいっちまったんだ、百足の野郎。
つい今しがたまでとは考えていることが正反対である。これでは百足と言えど立つ瀬がない。
「お前こそしっかりして欲しいね。今自分が何処にいるのか、分かっているのかい?」
それでも、意地でも百足を突きつけてやろうときょろきょろしているサダに、ジョンがおもしろそうに言った。
「お前はもう転移を済ませているんだよ。」
サダはキョトンとした。だって、何も感じなかったし、手や体を見ているかぎりでは、まだ怪奇百足男になった様子はない。だから、まだ転移が終わっているわけはないはずなのだ。
「もう転移は済んでいるって?」
サダはオウムのようにくり返した。事態を把握できず、混乱しているのは明らかだ。目が完全に点と化している。
「よく自分の居る場所を確かめてみるんだな。」
ジョンに言われてサダは改めて自分の居る場所を見た。見て、唐突に気がついた。
「ひょっとしてもう転移は終わっているのか!!」
サダが居たのは受信機の中だった。と言うことは、実感は湧かないが、自分はもう怪奇百足男となってしまったのか?サダは落ちこんだ。いったい誰なら想像しうるというのか。自分が百足だと悟った男の気持ちなんかを。
「ジョン、怒らないから、正直に教えてくれ。僕は怪奇百足男になってしまったのだろう?」
サダは、ガン宣告を受ける患者の気持ちで言った。だが、ジョンはガン宣告をする医者の気持ちになってはくれなかった。ジョンの方が医者よりももっと立場が悪いにも関わらず、だ。それどころか、こみ上げてくる笑いを必死に堪えているようにさえ見える。
「おい、ジョン。いくらなんでも笑うのは失礼過ぎるんじゃないのか。元はと言えば、悪いのはお前なのだからな。」
「いやいや、俺は少しも悪くないさ。それにお前だって百足男になってはいないしね。」
ジョンの答えはサダの予想を大きく裏切るものであった。
「どういうことなんだ?」
サダにはジョンが何を言わんとしているのかさっぱり分からなかった。転移は終わった。なのに百足男になっていない。だが、百足は確かにいた。それは間違いない。とすれば百足はどこに行ったことになるのだろう?サダは考えるのを止めた。完全にサダの頭の許容範囲を超えている。
「まだ分からないか?」
釈然としない様子のサダを見てジョンが言った。
「この転移装置にはある特殊な情報処理プログラムが組みこまれているんだ。」
「?」
「分かりやすく言うとだな、転移させるときに情報をザルに通しているのさ。」
「全然分かりやすくないぞ。」
「まぁいいから最後まで聞けって。」
サダはまだ事情が飲みこめていなかった。ジョンは明らかにこの状況を、つまりはサダの反応を楽しんでいる。サダにとって、この状況はまったく面白くなかった。ジョンは、というと、いつもはうまくいかない発明がうまくいったせいか、その対応に余裕がある。
「送信機から受信機に転送するときに、情報をザルに通す。するとそのザルは転送したい情報と、偶然紛れ込んだイレギュラーな情報とを分けてくれるのさ。丁度、水とそこに混じっていたゴミを分けるようにね。」
サダは一瞬考えたようだったが、すぐにジョンの言っている意味が分かったらしく大きく頷いだ。
「なるほど、するとさっきの百足はザルにひっかかって受信機まで届かなかった訳だ。」
「俺の転移装置はハエ男とは無縁なのさ。」
ひとしきりの感動の後、二人は面白がっていろいろな物と一緒に転移を行った。
カエル、ミミズに、カマウドウマ。たわしに、ジッポ、果てはうどんまで。
送信機から受信機へと転移しては、またブツを抱えて送信機に戻るのである。それではあまり転移装置の意味がない、ということに二人が気がついたのは、 一通り遊びたおした後だった。
「なあ、サダ。」
瞬間転移装置の前の簡易式テーブルにひじを突きながら、ジョンがおもむろに口を開いた。
「何だ?ジョン。」
一息入れるのに煎れた紅茶を飲みながら、サダは気のない返事をする。
「この転移装置、いちいち受信機から送信機まで戻るのが面倒だと思わないか。」
「実用化のときには送信機と受信機を並べて設置すれば良いさ。」
サダの回答は明快だった。どんなに偉大な発明と言えども、最初から完璧ではあり得ない。今後の改良点としては考えておくべきだろうが、現時点で対応の方法があるのであれば、それで十分ではないか。ジョンの初めての快挙とも言える発明にケチを付ける必要などなかった。これ以上何を欲ばることがあろうか、いや、ない。
「でも、それじゃあ、かなりスペースをくっちまうだろう?」
ジョンはまだサダに言ってないことがあるようだった。サダは少し興味をひかれた。
「フーン、で、何を考えた?」
「送信機から受信機への転移が成功したら試そうと思っていたんだけどね、」
ジョンはそこで一息ついて、ゆっくりと口を開いた。
「この装置、理論上は、受信機から送信機にも転移できるはずなんだ。」
「やけに、自信なさそうに言うんだな。」
ジョンの発明が文句のつけようがない成功を収めたことで、サダはすっかり非日常の雰囲気に取り込まれていた。もっとストレート言うなら、百年に一度あるかないかの珍事に出くわして、冷静な判断力を失っていた。そうでもなければ、納得しかねるようなことをサダは言った。
「試してみれば良いじゃないか。」
しかも、そう言いながら受信機の中へと入って行く。
「しかし、うまくいくかな。」
面白いもので、サダが微塵も不安な様子を見せないので、かえってジョンが慎重になっていた。
「なに、ここまでうまくいったんだ。大丈夫だよ。うまくいくさ。」
ここまでがうまくいったから?でも、これからもうまくいくとは限らないのではないか。サダがその事実に気がついた時には、すでにジョンは転送のための情報を入れ終わっていた。
「そうだよな。よし、転移するぞ。」
「いつでもいいぞ。」
今更、不安になった、とも言えずにサダが仕方無く返事をすると、ジョンが転送スイッチを押した。
次の瞬間サダが見たのは、凍りついたジョンの笑いだった。そこはかとない不安がバクテリアのように増殖していくのを感じながら、サダはジョンの台詞を映画のワンシーンのように聞いた。
「理論上はうまくいく、はずだったんだがなあ。」
「いったい何が起きたっ!正直に言ってみろ!!」
そう叫んでいるのは、怪奇百足カエルミミズカマドウマたわしジッポうどん男だった。
最後の最後にきて、サダは判断を誤ってしまったのだ。
ジョン曰く、
「ゴミの引っかかったザルに逆から水を流しこむと、ほら、全部ごちゃ混ぜになるだろう?」
「何が理論上は可能、だ!このマッドサイエンティストめ。元に戻れるんだろうな?」
サダは、頭についているとさかのようなナルトを震わせながらそう言った。サダの怒りは天をも焦がす勢いであったが、なんとも迫力を欠く姿ではある。
そこへ、よせば良いのに、ジョンがニヤッと笑って言った。
「でも、なかなかイカしてるぜ。」
サダは物も言わずにジョンを一発ぶん殴ってやった。
というわけで、それ以来、ジョンは瞬間転移装置の改良に精を出している。サダは、と言うと、右手に融合しているジッポで煙草に火を点けながら、頭に生えた亀の子たわしの感触をせめて楽しもうとしている毎日である。
元に戻れる日はいつなのか。神様がそれを決めてしまっていることを、ひたすら望むサダなのである。
とある発明家の法則 竹中凡太 @bontake
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