終章 - 3 高尾山

 3 高尾山




「毎年ここに来ていたそうです。そして、きっとこの二十年間、彼は一日も欠かすことなく……ここに登って来たんでしょう」

「二十年……そしてその日は、毎年、今日だったんですね」

「はい、一度手紙の返事をもらっていて、そこに書かれてあったんです。娘の通夜が十六日でしたから、その翌日に登っているんだと、そこに、書かれてありました」

「しかしこんなところに、あいつはまだ、いますでしょうか?」

「それは正直わかりません。とにかく、探しましょう」

 高尾山頂と書かれた立派な標識の前に立ち、二人は懐中電灯を手にしてさらに歩き出したのだった。

 二人の妻はまだ着いておらず、きっとまだまだ掛かるだろうと、二人はそれぞれ思い思いの場所を探し始めた。

 しかしなんと言っても真っ暗闇だ。

 懐中電灯の光から外れれば、人が寝ていたってわからない。

 秀幸は先ず、二人が眺めたという大見晴園地へ進み、そこから富士山のある方へ目を向ける。

 ここで富士山を眺めながら、二人は何を思ったのだろうか?

 一瞬、そんな思いにかられるが、彼は慌てて過った疑念を葬り去った。

 そうして広場一帯に懐中電灯を照らしてみるが、光にあたるのはコンクリートの地面だけだ。

 あとは今来たところを戻るしかないが、そこはすでに涼太の父親が懐中電灯を照らしながらうろついている。

 ――涼太くん、君は一体どこにいるんだ?

 そう念じながら、秀幸は再び懐中電灯を周りに向けた。

 一方、吉崎謙治の方は茶屋のある方を調べ終わり、反対の斜面の方に立っていた。

 しかしサッと光を当てても、ベンチがあるくらいしか見当たらない。

 ――やっぱり、ここじゃなかったか……?

 などと思って、彼が前方へ当てていた光を足元に戻した時だ。

 ――あれ?

 数メートル先にあるベンチの上に、何かが置かれたままになっている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る