終章 - 3 高尾山(2)

 3 高尾山(2)




 最近では国外からの観光客が増え、ゴミが散らかったりしてマナーが乱れて困っていると、雑誌か何かで読んだことがあった。

 だからどうせ〝食べ残し〟か何かだろうと、軽い気持ちで懐中電灯を当ててみる。

 すると何かがキラッと光って、一瞬メガネか何かがあるように思えた。

 慌てて走って、ベンチの前に立ったのだ。

 ――くそっ、なんだよ!

 と、思う間もなく、

 ――ん? なんでだ?

 とすぐに続いて疑念が浮かんだ。

 そこに、空のワンカップ大関が置かれている。

 それだけならば、まさに「なんだよ」ってことなのだ。

 ところがそんな〝から瓶〟のすぐ横に、ぴったりもう一つが並んでいた。

 それはきっと、蓋だけ開けて、口をぜんぜん付けてはいない。

 懐中電灯で照らしてみれば、酒は飲み口辺りまで〝なみなみ〟あって、キラキラ光って揺れている。

 酒を片方だけ飲み干して、もう片方はそのままにする。

 ――二本目を飲もうとしたところで、急にその気が失せたのか?

 なんてことをちょこっと思うが、すぐに違う理由を思い付いた。

 ――誰かと一緒に、飲んでいたのか?

 そして酌み交わしていたその相手とは、実際に飲むことなどできない相手だ。

 そう思った途端、彼は声を上げていた。

「涼太! いるのか? 涼太! 涼太!」

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