終章 - 2 沖縄 

 2 沖縄 




 ここはどこか問われでも、すぐにはきっとわからないと思う。

 規則性のない感じで並べられたデスクの上には、それぞれ雑多なものが所狭しと広がっていた。

 そしてもしも、ここが学習塾の教員部屋だと説明されれば、きっと疑うものなどいないだろう。

 しかし至るところに並んでいる書物には、教科書や参考書の類は見当たらない。

 すべてが医学的なものばかりで、さらに言うなら、目を向けるとどこかに必ずパルスオキシメーターや聴診器のような医療器具が目に入るのだ。

 ところがその中に、一つだけ妙にきれいな空間があった。

 デスクの上には何もなく、書類一枚置かれていない。

 他の場所のように段ボールや書物がデスク周りにも置かれておらず、そこだけがまるで別世界のようにも見えるのだった。

「で、いつの間にか、こうなっていたってことなんだよな? そしてこうなるまで、誰も気が付かないまま……そんなことが、ここで可能だったのか?」

 そして少なくとも彼の記憶によれば、この部屋でこれまで一度も、こんなにキレイなデスクは見たことがなかった。

「きっと、少しずつだったんだと思います。机周りはわたしも、あれ? なんかきれいだなって思ってたんですもん……」

 それが今夜一気に、デスクの上からものが消えた。

 さらに引き出しの中も〝もぬけの殻〟で、唯一、封筒だけがポツンとひとつ残されていた。

「で、退職届ってか? 医局の誰も聞いてないし、だいたい、あいつの患者はどうなるんだよ?」

「それが、明日、新しい先生がいらっしゃるんです。わたしも、明日からその先生に付くことになっていて……」

 だから、これまで教わってきたお礼をしようと彼女は思った。

「まさか、辞めるなんて思ってないし、今日わたし休みだったから、食事でも奢ろうって思って出てきたんです。そうしたらいきなり、これですもん」

 研修医となって半年間、ずいぶんお世話になったと言って、永野芽依は悲しそうな目をして笑ってみせた。

 となれば、彼は借りていた家も引き払ってしまったのか?

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