第7章 - 3 顛末(4)
3 顛末(4)
「馬鹿野郎!」
と、いきなり罵声が飛んでくる。
次にエンジン音が響き渡って、タイヤの音があっという間に通り過ぎた。
涼太は即行立ち上がり、走り去ろうとする外車に目を向ける。
そして一瞬、何かを言葉にしかけるのだ。
馬鹿野郎! と言い掛けて、しかしすぐにそんな言葉を飲み込んだ。
そうしてそのまま、優衣へと必死の声を出したのだった。
「優衣! 大丈夫か?」
優衣は目を閉じたまま、涼太の声にも反応しない。
「大丈夫か? 優衣! なあ優衣!」
いくら呼び掛けても、うんともすんとも言わないままだ。
――救急車を呼ぶか!?
――そうして優衣は助かるのか?
ほんの数秒、そんな思いが頭の中を駆け巡る。
しかしすぐに、彼は心に思うのだ。
――優衣の望みは富士山だ!
そうして彼女を背負おうと、
――頼む、目を開けてくれ!
そう強く願って両腕に力を込めたのだった。
優衣の意識は戻らないまま、そんな彼女の上半身を必死に起こし、なんとか背負おうとするのだが、どうにもうまい具合にいってくれない。
――くそっ!
己の非力さに苛つきながら、彼は背負うことを諦めるのだ。
彼女の背中と太腿辺りに手を差し入れて、一気に優衣を持ち上げた。
同時に彼も力を込めて立ち上がる。
きっとトレーニングのお陰だろう。
思いの外苦労することなくスックと立って、涼太は足早に歩き始めた。
優衣の名前を声にしながら、富士見坂目指して歩みを進める。
ところがだった。
たった数分、距離にして五百メートルも進まぬうちに、腕が微妙に震えはじめた。
下半身のトレーニングは続けていたが、腕の筋トレなんかはしたことがない。
特に最近は鉛筆より重いものを持つことなど滅多になくて、せいぜいカバン何かを抱えるくらいだ。
次第に震えが大きくなって、腕の痛みが増してくる。
それでも彼は必死に頑張った。
優衣の名前を心で叫び、優衣を抱えて歩き続ける。
――もう少し、もう少しだ!
実際あと一キロもない。
しかしとうとう力が尽きてきて、優衣の脚先がずり落ちていく。
彼は必死に腰を屈めて支えようとするが、そんな努力にも限界がきた。
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