第7章 - 3 顛末(3)

 3 顛末(3)




「寒くない?」

「だいじょう、ぶ……だよ」

 か細すぎて、風の音かと思うくらい優衣の返事は心許ない。

 それでも首筋に感じる彼女の吐息は、ゆっくりとだが規則正しく続いていた。

 さらに走り込んでいたせいか、彼女を背負って歩いても、さほど辛いなどとは思えなかった。

 幸い風もなく、三月とは思えないくらいに暖かい。

 だから今ある心配はたった一つ……。

 日没までに、あの場所へたどり着けるかだけだった。

 きっと六時には沈んでしまう。

 そうなれば、あっという間に暗くなって、西の空に見える富士山もすぐに暗い影となり果てる。

 もうすでに、西の空には夕陽が色付き始めていた。

 それでもきっとこのままいけば、あと十五分くらいで坂の上に立てるだろうと、彼が思い始めていた頃だった。

 きっと、大丈夫だとは思っていても、足に疲れが来ていたのかもしれない。

 或いは優衣の状態に気を取られていて、そんなことになっていたのか……?

 ふと気が付けば、ほぼほぼ道路の中央を歩いていた。

 それでも車線のあるような道じゃないし、車も滅多に通らない。

 だから歩きながら少しずつ、彼は道の端へ行こうとしたのだ。

 ところがちょうどそんな時、車のクラクションが響き渡った。

 それもすぐ後ろから……驚いた涼太は一気に二、三歩飛び退いてしまう。

 そしてその瞬間、二歩目を着地させた頃には大失敗に気が付いた。

 グラっと優衣の身体が大きく揺れて、彼は慌てて己の体勢を傾ける。

 優衣に合わせて身体を必死に斜めにしながら、彼女を支えようと踏ん張ったのだ。

 しかし今一歩及ばずで、優衣と一緒に地面にゴロンと転がってしまった。

 そして次の瞬間だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る