第6章 - 2 涙の行方(2)
2 涙の行方(2)
聞き終わって一瞬、秀幸はまさに〝唖然〟という顔をして、
「おいおい、それってホントの話かあ?」
「なんだって、ホント、笑っちゃうね」
「しかしまあ、ずいぶん短絡的というか、なんというか……」
そう言った後、ふうーと大きく息を吐き、なにやら感慨深げに天井を向いた。
そうして再び優衣を見つめて、
「でも、なんともありがたい話だよな、よかったな……優衣……」
静かな声でそう告げて、優衣の視線から逃れるように横を向いた。
涼太が目指している高校は、病院の最寄り駅から電車一本で着いてしまう。
もちろん到着駅からはそこそこの距離を歩くことになるのだ。
それでもそこに通うことになれば、学校帰りに毎日だって寄れるし、さらに涼太はこうも言った。
「もっともっと勉強してさ、俺、医者になって優衣の病気を治すから、だからさ、俺たち大人になったらさ……」
――わたしはきっと、大人になんかなれないわ。
まるで言葉の隙間を埋めるように、そんな思念が浮かび上がった。
「大人になったらさ、俺たち、結婚しよう!」
――だから結婚なんて、できるはずないの……。
「だからそれまで、ちゃんと待っててくれよ!」
――お願いだから、そんなことわたしに言わないで……。
そう心で返しながら、優衣は無言のまま涼太の顔を見つめ続けた。
そうして少しずつ涼太の表情も不安そうになって、優衣は慌てて声にしたのだ。
「それって、本当に本気なの? 涼ちゃん……」
「一応、本気なんだけど……ダメ、かな……?」
「ううん、そんなことない」
――すごく、嬉しい……。
それは小さな呟きで、きっと涼太には届かなかった。
それから二人の唇がゆっくり離れ、優衣の目には涙が浮かぶ。
涼太はそれを喜びの涙と勘違いしたが、本当のところはそうじゃないのだ。
彼の気持ちはもちろん嬉しい。
だからこそ優衣は、自ら唇を近付けていった。
けれどその時、〝喜び〟よりもなん倍も強く、〝諦め〟という感情が、涙を溢れ出させていたのであった。
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