第5章 -  2  8月24日(2)

 2  8月24日(2)




 八月のお盆明け、二回目の月曜日という日に、涼太と優衣は秀幸の運転する車で清滝駅前までやってきた。

「わたしたちはここで待っているから、頼むぞ、涼太くん、絶対、優衣に無理はさせないでくれよ」

 そう告げる秀幸の隣には、行かないと言い張っていた美穂の姿もしっかりあった。

 不機嫌そうにはしていたが、涼太へも視線を背けることはない。

 さらに当初は、頂上まで同行するつもりだった秀幸も、優衣の必死な言葉に二人を見送ることにしていたのだった。

 ――無理なんか絶対しないから! 

 ――だから、二人だけで行かせて欲しい、

 そんな言葉で許す気になったのも、ここ数週間でのことがあったからだ。


 夏休みに入って、涼太はほぼほぼ毎日、優衣のところへ顔を出した。

話をしたり、テレビを一緒に眺めたりと、特段何をするわけではなかったが、それでも優衣はそんな時、何がそんなに嬉しいのかというくらいによく笑った。

 そしてそのような時間には、優衣は一度も発作を起こさない。

 それどころか、悪くなる一方だと言われていた心臓が、少しだけその機能を上向かせていると、医師が驚く顔を見せたのだ。

 さらに偶然そんな時、涼太がたまたま病室に居合わせる。

 医師からの言葉にホッとした表情の美穂の前で、彼は誰に言うとはなしに声にした。

「最近彼女、毎日よく笑ってるから、だからきっと、病気の方が逃げていくんだ! だから具合もいいし、この間なんて……」

 ――一階から四階まで、階段で往復できたんだぜ! 

 思わずそう言い掛けて、慌てて口をつぐんでいた。

 それからも、そこそこいい感じの状態が続き、両親は大いなる不安を抱えながらも二人でのことを許す気になった。

「じゃあ、ゆるゆると、行きますか?」

 涼太のそんなひと言に、優衣は嬉しそうに笑顔を見せる。

 そうしてそのまま両親の方へ向き直り、優衣は笑顔を向けつつ頭を下げた。

 たった数秒間のそんなシーンは、溢れんばかりの感謝の気持ちが感じられる。

 だからこそ、心に強く思うのだった。

 ――絶対に頂上まで行って、元気にここまで戻ってくるんだ!

 きっと彼のこんな決意を、優衣も存分に感じているだろう。

 歩き出してしばらくは、妙に固い顔を崩さない。それからはずっと黙ったままで、優衣が口を開くのはケーブル乗り場に着いてからだ。

「でも、なんか変だなあ……なんだか、涼ちゃんじゃないみたい」

 乗車の列に並んでいると、急にそんなことを言い出したのだ。

「おかしいかな?」

「ううん、きっと、見慣れてないだけだよ」

「まあな……俺もまだ、実はピンとこなくてさ」

 涼太は恥ずかしそうにそう言って、頭左右を両手で乱暴に掻き上げた。

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