第4章 - 3 捜索(4)

 3 捜索(4)




「そこに行ってみよう! そこってのは、タクシーで行けるようなとこなのかい?」

 いきなり秀幸にそう言われ、涼太は思わず頷いていた。

 いざという時のために美穂一人を病室に残して、二人は呼びつけたタクシーに大急ぎで乗り込んだ。

 そこまでの間で、涼太は何度も言いかけるのだ。

 しかしどうにも言葉にできず、心の中で何回となく問うたのだった。

 ――どうしてそこはどこかって、聞かないんだよ!?

 そうしてタクシーに乗り込んでしまえば、当然、行き先はどこかってことになる。

「さあ涼太くん、どこに向かったらいい?」

 そこでようやくそう聞かれ、彼はやっとこ言葉にしたのだ。

 それからは、ただただ居た堪れない時間だけが過ぎ去った。

 涼太の告げた言葉を飲み込むように復唱し、それからしばらく、秀幸は一切言葉を発しなかった。

 エンジン音と風切る音だけが車内に響いて、時折タクシー無線が唐突に聞こえた。

 そうして一時間とちょっとも揺られた頃に、タクシーは目的地に到着する。

 この時、辺りの景色に目をやって、秀幸は何を思ったろうか?

 確かに、所々に照明が点いていて、真っ暗だということはない。

 しかし夜空は厚い雲に覆われていて、照明からちょっと離れれば闇夜という言葉がしっくりくるような印象なのだ。

 そんな場所に、優衣が一人でいるかもしれない。

 それも後二時間ちょっとで、日付が変わろうかという時刻にだ。

 ――こんなところに?

 そう思うのが普通だろうし、実際すでに涼太も「いるわけないよ」と、微かな望みも捨て去っていた。 

 しかしここまでやってきて、そんな言葉など口にはできない。

 だからとにかく告げたのだった。

「もう、ケーブルかーも動いてませんし、普通に考えれば、きっと一号路を行ったんだと思います。一号路なら、所々明かりも点いてるんで……」

 そこは高尾山口からほど近い、エコーリフトとケーブルカー乗場となっている駅前の広場だった。

 しかし当然、こんな時間に駅に人などいる筈もない。だから涼太はそう告げた後、正面に見える駅に向かわず、そのまま右方向へ歩き始めた。

 そして秀幸も、何も言わずにその後ろを付いていく。

 高尾山、山頂へは、いくつものハイキングコースが整備されていた。

 それでもこの暗がりの中、尾根を進む険しい道や、川沿いを行くコースを選ぶとは思えない。

 下調べなどしていないだろうから、優衣が選ぶとすれば一号路となる筈だった。

 薬王院に続く参道であり、そこだけが広場からも薄ぼんやりと見渡せる。

 しかし月明かりが届かない中、なんとか見え届く路面だけが頼りなのだ。

 ――やっぱり、違ったか! 

 一号路を十分ほど登ったところで、涼太はそんな思いに立ち止まるのだ。

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