第4章 - 3 捜索(3)

 3 捜索(3)




「行けるさ、絶対に行ける。そん時は、俺がちゃんと見守ってやるよ」

 ――だからって、こんな場合に行くようなところか?

 瞬時に打ち消す気持ちが大きく勝り、フッと浮かんできたのは屋上のフェンスギリギリに立っている優衣だ。

「あの……ここの屋上なんてのは、当然確認してるんですよね?」

 もちろんそこにもいなかった。

 そんな返事が返ったところで、ちょうど優衣の病室前に着いた。

 中にはやっぱり母親がいて、涼太が現れても一切そっちを見ようとしない。

 きっとそんな状態を、秀幸も予想していたのだろう。

 優衣の母親だと紹介こそしたが、腕組みをしたままニコリともしない美穂にはさっさと背を向け、再び涼太へ告げるのだった。

「こんな時、行っていそうな場所なんだが、どうだろう? どこか、思いついたりしないだろうか……?」

 そう言われ、涼太は思わず声にする。

「あの……彼女、お金は、持っていたんでしょうか?」

「お金か、さあ、どうだろう?」

 秀幸はそう言ってから、妻である美穂の方に目を向ける。

 するとあらぬ方に目を向けたまま、美穂はポツリと言って返した。

「外出着に、三万円ほど入ってました。もちろん、いざという時のためにです」

 そうして初めて、美穂は涼太へ目を向ける。

 だから何? 

 という目を見せて、すぐにそっぽを向いてしまうのだ。

 それからいかにも、〝やれやれ〟といった感じにため息を吐いた。

 そこからは、何をどう話したのか順序立てては覚えていない。

 ただとにかく、思い当たる場所はある。

 しかしきっとそうだというわけじゃなく、そんなところへ行ってみたいと、聞いたことがあるというだけ……。

 そんな感じを必死に告げて、

 ――だからすみません、力になれなくて……。

 心にあったそんな言葉を声にしようとした時だった。

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