第3章 - 4 変化
4 変化
優衣が再び入院してから、父、永井秀幸は毎週日曜日に病室を訪れていた。
午前中、昼少し前に病室に着き、昼過ぎに現れる美穂と一緒に、優衣を囲んで昼食を取る。
そんな習慣が一気に変化したのは、ひと月くらい前のこと、優衣がいきなり言ってきたのだ。
「ねえ、日曜日来るの、午後からにしてもらっても、いい?」
病室に到着するなりそう言って、申し訳なさそうな顔を彼へと見せた。
もちろん午後からだって構わなかった。
だからいいよと答えておいて、秀幸は素直に聞いたのだった。
「午前中、何かあるのか?」
「え? 別にないけど……」
そう言って、一瞬困ったような顔を見せた。それでも返事を待っていると、
「じゃあいい、午前中でいいよ、これまで通りで」
急に視線を大きく逸らし、慌てたようにそう言ってくる。
きっと理由はちゃんとあるのだ。
しかしそれを知られるくらいなら、そうしなくていいと思ったのか……?
そんなことを思って、彼は続けて優衣へと言った。
「今日はどうする? なんなら、出直して来たっていいぞ」
「ええ? いい、いいよ、今日は、ぜんぜん大丈夫だから……」
――何がぜんぜん、大丈夫なんだ?
そんなジョークを言いたくなったが、さすがにそれはまずいだろうと、彼は慌ててそんな言葉を飲み込んだ。
「別に構わんぞ。どうせ今日は先生とお話があってな、またもう一回、夕方には病院にくるんだよ。だからママは、その時に一緒に来るからさ……」
「そうなんだ、それって、何時なの?」
「四時、からかな……?」
「どんな、お話なの?」
「さあ、どうせあれだろ? 優衣が病室を抜け出して困るとかさ、その辺のクレームじゃないか?」
そんな思い付きの軽口に、優衣は一気に表情を変えて、
「ごめん、なさい……わたしあの頃、どうかしてた、から……」
そう告げて、スッと下を向いてしまう。
少なくとも、今の優衣はそうじゃない……最近はずいぶん落ち着いていると、美穂に聞いて知ってはいたのだ。だからあえて、そう口にしたが、リアクションがあまりに想像とは違った。
そのせいで妙に居た堪れなくなって、
「よし、とりあえず来週から、お昼過ぎにママと一緒に来ることにするよ。さて、それじゃあ車椅子を借りてくるから、久しぶりに、喫茶室にでも行ってみるか……」
慌てた感じでそう告げてすぐ、彼は逃げるように病室を後にしたのだ。
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