第3章  -   3  平穏(3)

 3  平穏(3)




 あれ? と思った時には、優衣が二人になっていた。

 あれよあれよという間に床や身体が揺れ始め、気付けば気分も最悪なのだ。

 そしてきっと、この時すでに居たのだろう。

 優衣の困った顔が揺れていて、彼は彼女の視線をなんとか追った。

 後ろを向くと、そこに誰かが立っている。

 ――誰だ? あのおばさん。

 そう思うと同時に、涼太は必死に優衣へと告げた。

「じゃ、行くわ、俺……」

 それからさっさと病室を出て、彼はトイレに行こうと思うのだ。

 ところがトイレの場所がわからなかった。

 何度も行っている筈なのに、どっちに行けばいいかがわからない。

 果たしてこの階にあったのか? そんな記憶にさえ辿り着けないまま、彼はあっちこっちを彷徨い歩く。

 そうしてどうにかこうにたどり着き、個室に入ってしゃがみ込んだ。

 どうにも辛くて仕方ない。周りがグルングルンと廻りに回って、ジッとしていることさえできなかった。

 それでも懸命に身体を動かし、彼は便座に顔を向ける。

 それから指を喉奥に突っ込んで、胃の中の酒を必死に吐き出そうとした。

 ところがぜんぜん出てこないのだ。ただただ「おえっ」となるだけで、さらに気管支辺りが強烈に痛んだ。

 気付けば涙まで溢れ出て、悲しくもないのにいつまで経っても止まってくれない。「くそっ」「くそっ」と言いながら、彼はそんな状態に必死に耐えた。

 そうしてやっと、彼がそこから出られた時には、太陽は西の空へと傾きかけていたのだった。

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