第3章  -   3  平穏(2)

 3  平穏(2)




 少しは口に入ったのだろうが、それだって舌が湿った程度だと思う……って印象だったのに、優衣の顔付きはまったくもってそうじゃなかった。

 もしも声になっていたら、「ゲー」やら「ギャー」って感じだろう。

 一気に顔がしかめっ面になって、そのまま三秒くらい微動だにしない。

 だから涼太は心配になって、「大丈夫?」と声をかけたのだ。すると突然、

「これ、あげる」

 しかめっ面を涼太へ向けて、いきなり優衣がそう言ってきた。

「え? 飲まないの?」

「もういい、いらない。涼太くん、勿体ないから、飲んでくれる?」

 そこで苦み走った顔を一気に変えて、満面の笑みを見せるのだ。

「ええ? 俺だってこんなに飲めないよ。どうしてだよ、飲みたかったんだろ?」

「そうよ、飲みたかったの。でもね、もういい、もう充分……」

 そうして手にある瓶を両手で握り、それを涼太へ掲げるように突き出した。

 仕方なく、目の前にあるそれを受け取ると、優衣はジッと涼太を見つめ、囁くように告げるのだった。

「大人になって、一緒に、お酒が飲めるといいなあ〜」

 この時フワッと、力強い何かが涼太の心に湧き上がった。

 〝大人〟という響きに、〝酒を一緒に〟なんてのが加わって、不思議なくらい心が高揚してしまうのだ。

 気付けば一気に飲んでいた。

 ゴクゴクってところで、一瞬いかん! と思ったが、ここでやめたら飲み干すことは絶対できない。

「大丈夫?」

 だからそう言われるまで、瓶から口を離さなかった。

 中身をすべて飲み切って、涼太は素直に優衣へと告げる。

「こりゃ、酔っぱらっちまうな、きっと俺……」

口に入った途端に酒の味が広がって、喉から胃の辺りがパアッと一気に熱くなる。

 それでもだ。思ったほどではなかったし、

 ――これなら俺、もう一本くらい、いけるかも?

 などと思っていると、それはあっという間のことだった。

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