第3章  -   3  平穏

 3  平穏




「買ってきてくれた?」

「買ってきたけどさ……これ、どうするんだ?」

 そう言って、涼太はバッグの中へ手を突っ込んだ。

「そりゃあ、飲むんでしょう?」

「誰が? 俺だって、ビールしか飲んだことないんだぜ。あのさ、やめといた方がいいって、絶対……」

「いいよ、涼太くんは飲まなくったって、わたしが、飲みたいんだからさ」

「知らないぜ、だいたい、心臓、大丈夫なのかよ!」

「お酒飲んじゃ、ダメだなんて、わたし言われてないから、大丈夫だよ」

 ――そりゃ、酒を飲むなんて、誰も思わないからだろ?

 そう言いかけた時、バッグから取り出したものをいきなり優衣が奪い取った。

「おいって、いいのか? 知らないぞ」

「そんな頭してるクセに、涼太くんって意外と、意気地なし、よね……」

 涼太に向けての声だったが、視線はまったく別にある。

 優衣が手にしているのはワンカップ大関で、今まさに、アルミニウム製の蓋を開けようと必死になっている。

 ところがなかなかうまくいかない。

 なかなか蓋が開いていかず、かと言ってあんまり力を入れれば、勢いで酒が溢れてしまいそうなのだ。

 そんな感じがありあり見えて、

「貸してみな……」

 そんな声をかけてみた。

 しかし顔を向けるどころか、うんともすんとも言ってくれない。

 だから涼太は、ただただ黙って見ていることにした。もしも、少しでも辛そうに見えたら、その時こそは何を言われようがやめさせる。

 ――まったく、意味わかんねえよ!

 などと、多少の腹立たしさを感じながら、彼は優衣の姿を見守ったのだ。

 そうしてそこそこ待ったのち、ようやく二センチくらいの隙間ができた。

 そのまま口を寄せ、瓶を傾ければいい感じに酒が流れ込んでくれる。彼女もきっとそう思い、そこでやっと涼太の方へ顔を向けた。

 やった! てな感じに笑顔を見せて、そのまま大関の瓶に口元を添える。それからほんの少しだけ、瓶をチョコンと動かしたのだ。

 その途端、え? というくらいに呆気なく、瓶から一気に口元が離れた。

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