第3章  -  2 余波(4)

 2 余波(4)




 だからと言って、もしそれでまた、以前のようになってしまえば、優衣の身体に余計な負荷が掛かるのだ。

 ――できるだけ、興奮させないようお願いします。

 できるだけとは言いつつも、そんなことだって命に関わることだってある。そう担当医に言われてしまえば、それは絶対に避けなければならないってことなのだ。

 だから美穂は必死に、その少年との出会いを避けてきた。

 平日は努めて早めの時間に現れて、土曜日も面会ノートを確認してから病院に行き、車椅子で優衣を連れ出し病室には長居をしない。

 日曜日は夫、秀幸に行ってもらって、美穂は家で留守番だ。

 そうすれば、少なくとも優衣に何かを言わずに済むし、優衣も会ってもいない少年のことなど口にはしないと思うのだった。

 ところが思わず会ってしまった。

 学校の創立記念日。当然学校はお休みで、彼は面会開始の時刻には現れていて、とうとう美穂とのご対面だ。

 それでも、あのまま優衣が言葉を発しなかったら、きっとあんなことになっていないだろうと思う。

 ――なのにどうして……?

 そんな問い掛けを思いながら、美穂にはその見当が付いている。

 困惑の中、懸命に明るい声を出し、優衣は少年の名前を美穂へと告げた。

 つまりきっと、吉崎涼太という存在を、優衣は認めて欲しいのだ。

 ――そんなの、無理よ。

 絶対に無理だと決めつけて、美穂はなかったことにしようと心に決めた。

 ――わたしは今日、誰にも会っていないのよ。

 だから何も知らないし、何を言われたって答えようないのだと決めて、美穂はやっと優衣の病室へ戻って行った。

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