第2章  -  1 出会い(4)

 1 出会い(4)




 ところがなんとも皮肉なことに、次の日は朝っぱらから大雨だ。止んで欲しいと窓から表を何度も見るが、午後になってますます雨脚は強くなる。サッカーボールもびしょ濡れだろうし、どう考えたって彼がやって来るとは思えなかった。

 ところが彼はやって来たのだ。

 ――嘘……どうして……??

 いつもよりずいぶん早く来て、いきなりサッカーボールを探し始めた。

 当然あっという間に見つかって、昨日までと同じようにびしょ濡れのボールでリフティングを始める。フード付きの雨合羽を着込んで、それ以外はいつもと何ら変わりない。当然回数だって続かないし、何を好き好んでこんな大雨の中現れたのか?

 ――君が見ていてくれるからだよ。

 なんてことがあったらいいが、そんな驚きの事実があったなら、優衣の心臓はその瞬間で終わるを告げてしまうだろう……などと頭でコソッと考えつつも、最初はすぐにやめてしまうと思っていたのだ。

 ところがぜんぜんそうじゃなかった。

 お昼頃から蹴り始め、一時間経っても止めようとしない。それどころかいつもより転がったボールをさっさと追いかけ、すぐにリフティングを始めようとする。

 昨日までなら、ボールが転がっていくのを眺めつつ、天を仰いだり唸ったりと、結局次までけっこう時間が掛かっていた。

 ひと言で言うなら、昨日より〝がぜん〟一生懸命なのだ。

 昨日のことがよっぽど悔しいのか? 

 降り注ぐ雨の中、そのキビキビした動きを見ていると、〝ジーン〟と心が震えてくるようだった。

 ――がんばって!

 まるで映画の主人公を応援するように、優衣は何度も心の中で呟いた。

 ――がんばって! ほら、もう一回! いいち、にいい、ああ! 惜しい!

 なんて言葉が、時々声にもなっていた。

 そうしてなんとか、たまに三回目が成功するようになった頃、彼はボールを抱えてそこからやっと立ち去った。時計を見ると、午後二時をほんの数分過ぎたくらいだ。

 ――やっぱり、二時に何かあるんだ、きっと……。

 などと思いながら、優衣の心はすでに明日の午後へと飛んでいた。

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