第2章  -  1 出会い(2)

 1 出会い(2)

 



 その後は、ただただ続く静寂だ。なんともいえない〝呆気なさ〟を感じて、優衣は窓際から離れようとしたのだ。

 ちょうどその時、視線の片隅で何かが動いた。

外しかけた視線を再び窓に目を向けると、誰かがこちらに向かって近付いてくる。

 きっとグルっと回ってきたのだろう。小さな紙を手に持って、辺りを窺いながら建物のすぐそばまでやってきた。

 ――え? どうして……?

 そう思えたのは、昨日思いがけず、その姿を見かけていたからだった。

 ちょっと見ただけで、きっとしばらくは覚えていられる。そんな印象を十二分に身にまとい、茶色い長髪をなびかせ彼はそこに現れていた。

 ――だから、病院にいたんだ。

 昨日はしていなかったギブスをはめて、肩からサポーターみたいなもので右腕をしっかり固定している。

 きっと骨折か何かして、この病院で治療を受けた。

 そこまでは、すぐに優衣だって理解できる。

 しかしどうして、病院の裏っかわ、それも急患入り口なんかに現れたのか? 

 そう思って見ていると、彼は建物に面した広場で立ち止まり、何をするわけでもなくただただ〝ぼーっ〟と突っ立っている。

 そのうちに地面に寝転んで、ふと気付くと彼はどこかへ消えていた。そうしてさらに驚いたのは、次の日もおんなじくらいの時刻に彼はやっぱり現れたのだ。

 まさかね、いるわけないよね……なんて思いながらも、

 ――もしいたら、どうしよう? 

 などと、関係ないのに変な心配したりして、優衣はドキドキしながら窓から下に目を向けた。

 ところが彼はそこにいた。目を離さず見ていると、十四時ぴったりに慌てるようにいなくなる。時計を何度も見ていたから、何か約束でもあるのだろうか……。

 ――でも、あんな日陰にいなくても……。

 時間潰しなら、病院玄関前にある広場の方が暖かいし、誰でも座れるベンチだって置いてあるのだ。

 それから次の日も、彼は午後一時に現れて、椅子に座って漫画本を読み始める。そしてちょうど一時間して、漫画本を一冊残し消え去った。

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