第1章  -    2 永井優衣(4)

 2 永井優衣(4)

 



 翌日になっても、そのまた次の日も、一切口を開こうとしない。それどころか食事も満足に取ろうとしないから、周りが次から次へと必死に声をかけたのだった。

〝ちゃんと食べないと、病気に障るわ〟

〝きっとよくなるから、もう少しの辛抱よ〟

〝病気は気からって言うでしょ、だから元気を出して、ね、がんばりましょう〟

 なんてことを一生懸命に口にした。そしてその度、優衣は一切反応せずに、無視という態度で拒絶する。

 ――きっとよくなるって、いったい、いつまで待てばいいの?

 ――本当に、わたしの病気は治ってくれるの?

 そんな疑問が溢れ出し、とは言え聞いたところで答えはきっと変わらない。

 そうして三日目、美穂が病室に現れると、優衣はタオルケットを頭まで被り、ベッドの上で動かない。そんな優衣に向け、彼女はいつもの調子で告げたのだった。

「ずっと寝てばかりはよくないから、一階のテラスで、日光浴でもしたらどう?」

 そうして、ナースステーションで車椅子を借りてくると、美穂は続けて言おうとしたのだ。すると優衣がいきなり上半身を起こし、そのままベッドから降りようとした。

 当然、優衣が受け入れたんだと理解して、美穂はほっと胸を撫で下ろしたのだった。

 ところが次の瞬間だ。

「起きてたら寝なさいって言われて、寝てたら今度は身体に悪いの!? わたしはいったいどうすればいいのよ!」

 きっとここまで大きな声を、美穂はこれまで耳にしたことがなかっただろう。

「ねえ! 答えてよ! わたしはいったい、どうしたらいいのよ!!」

 そう言って美穂の目の前に立ち、彼女の顔を睨み付けた。

「もう! いい加減にしなさい!」

気付けば声になっていた。

「よく聞きなさい! あなたはね、わたしたちの言うことを、ただ黙って聞いていればいいのよ!」

 もちろん、〝そうして欲しい〟という意味だったのだ。

 そんな願望が勢いよく溢れ出て、声となった途端に自分の言葉に愕然とした。

 そうして次の瞬間だ。扉を塞ぐように立っていた美穂の身体に、優衣が勢いよくぶつかってくる。美穂は思わずヨロめいて、そのまましゃがみ込んでしまうのだ。

 慌てて辺りに目をやるが、すでに優衣の姿はどこにもない。

 走らないで! そう願いつづ病室を出るが、優衣はすでに階下に続く階段の前だ。

 もしも階段途中で発作が起きれば、

 ――だめ! だめよ!

「階段はだめ! 優衣、階段はやめなさい!」

 そう声になった時にはすでに優衣の姿はそこにない。

 そこからは、あえて声を出さずに優衣の姿を必死に追った。

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