II 信用契約

 あぁ、我星ライツもろくにも崩れ果てた。

 じぶん……オルディ・ギマインは、生地の地面に足を着ける場所がない事に|唖然《あぜん》とした。

 CWカノン・ウインカーの相討ち共倒れの戦局が居場所を失わせた。

 一般市民を巻き込んだ巨悪なシナリオ崩しの戦争に、僕は反吐が出たのだ。出せなくても、むせびながら反吐は出しきるつもりだ。

 一つ年上のメドアン大尉の生存確認すらも困難な廃墟空間で、ライツ軍軍人を捜索する事もやる前からやれない現状が、余りにも悲しい。

 ライツ軍とディアーテップナルのサグノズとの相討ち共倒れの戦争は、残留兵ざんりゅうへいの影すら見当たらない無惨むざんな姿だ。

 そんな道など判別できない地面を、とぼとぼと進む僕は、同年代と思えし若い男と遭遇そうぐうした。


「兄さんよ、食いもんあるなら分けてくれよ」

「その姿……サグノズエンブレム? つまり敵か?」

「今や敵も味方もあるまい。共倒れなんだぜ。俺はチャッキーさ。マルゴ・チャッキー。このいきさつをよく知ってる。嘘はつかないさ。なんなら交換条件だ」

「確かに同士討ちにしてはシナリオとは違う戦況にも伺える。輸送機ライナーに食糧は積んである。それとの交換ならのんでやろう」

「話が早くて結構、結構‼ で、お前様は?」

じぶんは、オルディ・ギマイン。ただのオルディだ。あんたをチャッキーと呼び捨てるがよろしいか?」

「ほう、大したヤロウだな。よろしくな相棒オルディ


 奴は僕と手と手の契約を交わしだした。


「敵との握手はナンセンスか?」

「それはない。問題はないはず」

「文句なしの契約成立という事で今後とも頼むよ、アイボウ」

「…………」


 僕はいつの間にか対人関係では、ぞんざいな対応ができていた。人工天体の衛星都市区にての交流の時に、他人との距離を詰めた事で話し口調が多少変化させたに違いない。


「ライツ軍のアイエルドを備えてるのか?」


 チャッキーは来るなりライナー構内で見かけたCWアイエルドに興味をしめした。


「食糧分けた後、ちゃんと状況説明をするんだな、チャッキー」

「ここ、まともな食材ないから、生き延びるのも苦労したんだ。まずはエネルギー摂取だ。いただきま〜す」

「…………」


 飲食を済ませたチャッキーだが、交換条件を忘れた様子で睡眠に入った。いびきのおまけまでつけてきたものだ。僕は起こそうとしたが止めた。


「ふぁアアア〜。仮眠もしたし、そろそろ話そうか。テメエ、よく起こさなかったな」

「信用の為の契約と思ってる」

「……ふうん。寝ボスケトンズラのチャッキー様なんだ。少し疑う事もできたはずだ」

「顔は食い逃げ犯らしいが中身は信用している。人を疑う経験は浅い」

「顔は余計だ、顔は‼」


    *****************


「……つまり、要約するとバイアルのサンプルの行方知らずが元で、容疑が空中分解しだし、引き金となって戦局が拡大……惑星をかけた戦争で生き残りすらない様子の惨劇か」

「そういう事だよオルディく〜ん。物分り良いヤツは好きだぜ」

「お生憎あいにくさま、男に好かれても気分悪い」

「人として好きなんだよ、オルディ」

「そうしておく。もう少し、詳しい情報はないものか」

「……あ、ならさ、又聞き情報だが、何でもサンプル品は持ち逃げしたのがライツの軍人で、特使として他の衛星居住区にサンプルの増産工場を作らせる為に動かせた話があったかなかったとか……あ、くまで又聞きだからな」

「その特使は僕だ。先輩である大尉からの命令で渡航していた」

「へぇ、そうなんだ……って⁉ テメエがサンプル特使だと⁉」

「そうだ。驚いたようだな。確かに増産工場開設の打ち合わせもした」

「この世の貴重品を希少価値のない副産物を増やす手助けして、どうすんのさ。とうに共倒れして組織はないんだ。あ、確かサグノズって他宇宙駐留軍用地を各武装惑星に陣営を敷いていたな。サグノズの顔が幅広いんだから、本国以外でもバイアル利用者を他方に拡散させられるよな」

「他国との協力体勢をネタに利用して裏切っての戦争は、このライツだけか?」

「ディアーテップナルは、他国の戦争を騙して勃発した史実は残ってないと資料館に掲載されてたぞ」

「騙した戦史記録がないとな。となると、ディアーテップナルはライツでは何が目的だったのだ」

「確かにな。お互いの惑星間で作戦内容を秘匿ひとくして作戦行動させたんだ。裏はあるな」

「裏をかく為、情報集めを始める。ついてこいチャッキー」

「裏……お前様、そこまで信用すんのか?」

「あんたは、嘘をついた。そのツケとしてついてくる義務はある」

「なぁんも嘘ついちゃいないさ」

「戦地をくぐり抜けて生き延びたらおしゃべりか? そんな軍人見たことはない。食糧が切れてたらもう少し物乞いする際は激しいはずだ」

「お見通し……って事ね。そうさ、俺はライツに偵察・観察スタッフとして、空中リポート作成班のデータ資料入手で動いた情報交換手こうかんしゅさ。俺様の頭と取り替えたい程によくキレる推察だな」

「今日ではない感じだな。何日間はいたんだ?」

「終戦直後から偵察を開始した。終戦後のデータ資料集めが目的だからな。かれこれ3、4日はかかった。よくぞ嘘と見抜いたな。大したヤロウだ、オルディくん」

「息を切らさない軍人がほとんどだ。口先だけ元気な男はあんただけだ」

「次々とムカつくようなセリフ吐くヤロウだな。張り倒すぞ‼」

「チャッキーなら、僕のセリフ一発目に既に張り倒してたに違いあるまい」

「真面目な顔つきで、冗談言えるのな。お前様はキレてるのかフザけてるのかてんで予測不能な存在だよ。ったくさ」

「クククク」

「あぁっ? ムフフ、フハハハハ〜‼ コイツはたまらなく糞面白ぇヤロウだな。一杯食わされたぜ」


 このマルゴ・チャッキーという間の抜けた男は、信用に欠ける存在かはおいといて、戦力に使えそうだ。

 何せよ彼は対戦相手の惑星軍人で事務スタッフ。利用でき得る内容ネタは、この者から吸収してみせる。

 まだまだネタは隠れてるはず。僕は血反吐ちへどを吐くにはまだ早いと思えるし、しばらくはこの男の監視と共に、状況を調べておくにしよう。




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グォイル・スィーパー @mstk147abc

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