グォイル・スィーパー

@mstk147abc

I 共倒

 じぶんは爆風の噴煙ふんえんで、その圧によって推し出された。

 僕は、オルディ。オルディ・ギマイン。

 スーパーマンを薬で創り出すような技術屋同士でいさかいが出来て、内乱が拡大。僕は、内乱の部隊に作戦会議なしの戦地招集という命令一つで、半強制的にやむを得ず参戦されていた。

 秘薬の名は非公開。僕はこんな情報未確認作戦に狩られた事に立腹したが、生まれや育った環境を恨んでも仕方ないから、やむを得ず半強制的参加を受け入れた。それしかなかった。

 スーパーマンみたいな存在。この惑星ライツでは、『マイティメイル』と呼称して久しかった。そのマイティメイルを創るのに薬で容易に戦闘強化するのは、活性化エネルギードリンク剤に類まれな存在だろうか。

 何にせよライツで生まれ育ったからには、僕はこんな戦地招集、強制戦闘員の起用という環境は素直に引き受けるのが賢明な判断だと思った。


 一方で、僕の知らない軍国主義惑星、ディアーテップナルの人工マイティメイルによるパイロット搭乗用重機動兵装『カノン・ウインカー』が登用させられた。その千を超える量産機が、他の軍事文化星系へと鎮圧作戦に実用・投下されたらしい。

 カノン砲身を右肩に搭載させ、オートマチックで方向指示歩行、或いは方向指示飛行を可能にするよろいのマシン。それがカノン・ウインカー。

 こんな新型兵装が登用されれば、鎮圧作戦なんて秒殺的に早期完了してしまうもの。僕は、この情報は同僚の会話を又聞きして得たのだ。

 こんな戦地赴任する世の中だ。ライツでは、カノン・ウインカー情報を嗅ぎつけた工業技術屋が、裏口で入手した新型機設計図の元、独自技術を起用しては、ライツ製カノン・ウインカーに取り組んだ新情報が気になって仕方なかった。


 時は流れ、ライツ製カノン・ウインカーの量産機が完成した。完成直後に情報入手したディアーテップナル軍事機構『サグノズ』が、ライツ軍とコンタクトしてきた。

 サグノズとライツ軍による『共闘同盟条約』が軍事的圧力により締結されたらしい。

 半強制的に軍事協力者になった気分は、ほとんどの兵士からしたら胸糞悪いもの。僕は、協力者になれるものなら半強制だろうと構わない。それで兵力増量で強化されるのなら、文句一つありはしないと考えてみせたからだ。


「オルディ、お前は胸糞悪くないんだな。肝すわってる奴だよ、お前は」


 言うのは、僕の一つ年上のメドアン大尉たいいだ。彼は、凄腕パイロットであり、ライツ製カノン・ウインカーの指揮官機搭乗員。いわゆる、未確認作戦の指揮隊長だ。


「メドアン大尉のお言葉に準じ、わたくしオルディはサグノズの方式に抗う所存であります」

「オルディ軍曹ぐんそう、お前は先輩の命令でなくテメエの意志で判断することだ。準じなくても良いってことだ。よく考えてみることだな」

「はっ、おっしゃる通りであります」

「タメ口で良いんだぜ。一つ年の差違いで堅苦しく話すなよ。二人きりの時はぞんざいにパーっと気楽になれや」

「お言葉ですが、現在は作戦期間中です。ぞんざい……砕けた言葉で交わすなど、わたくしにはそのような気分ではありません」


 僕たち二人の間に、うように割り込んだ密使兵が、メドアン大尉に向かって耳打ちしては、何やら機密事項のような物の交換を行う動作に疑問を感じた。

 密使兵が立ち去り、その数分後に又僕に声をかけてきた。


「この物体が何か知りたそうな顔つきだな。お前だから教えてやる。ディアーテップナル軍事機構サグノズの人工マイティメイルは存じてるな。マイティメイルがバイアル剤接種投与により筋肉強化型という新人類……マイティジョーカーの開発に着手したようだ。このバイアルはサンプル剤だからな。紛失や拾われたらアウトだ。慎重な存在である、オルディにこれを預けるのも良いかもしれん。バイアルの瓶を預かってくれないか?」

「わたくしには限界があります。たかが瓶容器ではなく、向精神薬のような物の管理など、到底できますまいて」

「紛失、盗難が怖いのか?」

「それにはおくしておりません」

「信頼に足りるお前だからこそ、預かってほしい。お願いよりも命令に近いものだ。それでも無理か?」

「毒薬保管は未経験です。務まりますかどうかであります」

「オルディ軍曹、お前にこのミッションが片付けねばならん。もし、協力軍の化けの皮が剥がれて我々と対立した時をイメージしてみろ。毒薬が役に立つものと酒の肴になるネタに変わるぞ」

「たとえが大袈裟おおげさであります。でも……バイアル剤はお預かりいたします。お任せくださいとまでは自信はありませぬが、何とか管理してみせます」

「ようし、コレはお前に預ける。くれぐれもミスはするな。健闘を祈る」

「はっ、メドアン大尉‼」


 一時いちじ除隊後の僕は、単独でディアーテップナル属州にあたる独立型の機動衛星天体『ズィルソ』に裏口ルートで渡航する事になった。それは、バイアル剤のサンプル品を手に持ちながらの移動なので、慎重に軽飛行艇ショートライナーを飛ばさなければならなかった。指揮官機に近い機体のライツ製『カノン・ウインカー/LC−IE97︰アイエルド』を積載させた輸送機だ。

 僕が隊から外れた任務……特使を働いている頃。

 我々兵士たちが案じていた胸糞悪い事は悲しい結末に至った。

 サグノズの裏切りにより協力体勢が崩れて、敵別。互いの意志を尊重した抗戦劇はシナリオにないアドリブ戦況に変換された。

 僕はそんな対局など全く知らなかった。


 我が惑星ライツに疑似駐留しては落とす政略にハメられたまでは良い。

 僕がのちに知り得た情報では、互いが相討ちによる共倒れになった事。

 それは、僕自身じぶんじしんを氷漬けしてしまった悲報と成り果てた事だ。

 余りに悲しい。

 余りに悲しい程に反吐が出るくらいに笑えないネタに過ぎなかった。


 

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