「リクエスト」

低迷アクション

第1話

イラストサイトに投稿する“友人”が数年前に体験した出来事である。社会人になった頃から、始めた彼の創作活動は、漫画やゲームの二次創作イラスト、短編漫画、

サイト内で募集するオリジナルイラストへのコンテスト投稿、同人誌即売会の参加など、活動の幅を広げていった。


ミリオンヒットの閲覧数や、ブックマーク、フォロワーが爆発的に増えると言う事は無かったが、好きな漫画を介した創作者達とのネットやオフ会、イベントでの交流、

自身がupした作品に対するコメントなど、充実した創作ライフを送っていた。


そんな彼の創作活動に、件の出来事が始まったのは、投稿するサイトで“新機能”が

追加された時期の事である。



 この手の投稿サイトによくある事だが、乱立する他の類似サイトに負けないよう、

ユーザーを飽きさせないための頻繁なアップデートが行われるのが常だ。


現在のネット社会特有の、新しい刺激、仕様を乱発するのは、意欲的な姿勢に見える反面、使い慣れた仕様が急に変わり、ユーザー離れを助長する反作用の面もある。


友人のサイトでは、新しく“リクエスト機能”が追加された。フォロー、フォロワー関係なく、投稿者が設定すれば、作品閲覧者からリクエストを受ける事が出来る。自身のイラストでは、そんなに依頼が来るとは思えなかったが、これも何かのキッカケと考えた彼は、設定をONにした。


しばらくは何の変化も無かった彼のサイトにある日、一通の通知が届く。


通知欄を見ると、それはリクエストの依頼だった。内容を開く友人は、予想以上の長文に、目を見張る。以下に載せるのが、その内容である(二次創作の名称部分は、〇〇表記とさせてもらう)


「差出人:ハール


件名:リクエストしますよ


ハピ〇〇チャージ〇リ〇〇アの「〇〇〇」が高い木に吊るされたイラストを描いて下さい。手足と足首を鉄輪で(この鉄輪には入れて欲しい紋章があります。この次のメールで送付します)固定し、全身が見える姿で描いて下さい。首に鉄輪を嵌めるか、首吊りのようにするかは、お任せします。


着衣のまま、両腕も伸ばし広げ、手のひらは正面を向けての状態でお願いします。


足は長く、腕は足より少し短めにして下さい。


尚、足のつま先は下向きで、外向けの八の字が良いです。足首を固定する鉄輪と鎖は複数使用して下さい。鉄輪の色は灰色を錆びさせた感じの赤錆びの浮いたモノが良いです。


表情は目を閉じた感じでお願いします。口や体の部位から血が出る事はNGです。

吊るされる木の色は黒味がかかった茶色でお願いします」


メールを観た友人の感想は「?」だった。18禁関係のSM風イラストの依頼かと思ったが、それにしては、背景描写や服装が細かい。煽情的と言うより、緻密な描写を要求しているようにも見える。


依頼者のユーザー名は“ハール”も漫画等の人物に該当なく、ジャンルから相手を察する事は出来なかった。アイコン画像は無し…相手のページを見るが、作品やプロフィールも無い。


ネット上に蔓延る偽アカウントの可能性もあったが、何処かのサイトにアクセスするようなリンクも貼ってはいない。次に送られてきたメールの紋章も(よくわからないが、蛇のような棒が、八本のたうっている感じのデザイン?)

害のなさそうなPNGファイル…


こちらを何かに嵌めようとしている印象は受けなかった。友人はリクエストを受ける事を決め、3日程でイラストを作成し、依頼者にupした。


相手からの返信は、画像ファイルを送信して、1分も経たずに来た。驚いたのは、速さより、内容だ。


「イラストありがとうございます。貴方の絵は最高です。


次のリクエストです。Wake 〇〇 G〇〇lsの〇〇〇が四肢を拘束され、

水に沈められた…(以下は、先程の依頼文とほぼ同様であり、拘束に使用する道具や、キャラクターの表情、背景等の指示があった)」


このハールなる依頼者は病気なのか?確かに、好きなキャラクターや

作品に、自身の趣向や妄想を描くのが、二次創作だと思う。


だが、細かすぎる描写の依頼など、鬼気迫るモノが正直ある。それとも、自分が知らないだけで、ランク上位の創作者達には、このようなリクエストが毎日のように送られているのだろうか?


少し迷ったが、誰かに期待されているのは、創作に携わる者だけにわかる自己承認の最上位の快楽…友人は依頼を受け、イラストを作成した…



 「警告します。ハールなる人物は貴方以外にも、同じような、内容の依頼を複数、

他の創作ユーザー達に行っています。この人物はキ・チ・ガ・イです。以下のURLを

観て下さい。私の言っている事は間違いではありません。


この人物が行っている事は、私達の創作活動に対する悪質な嫌がらせです。すぐに依頼を拒否し、彼からの通知をOFFにする事をオススメします」


3度目のハールからのリクエストが来た直後に“唐突なイラリクに注意”と言う

ユーザーからフォローされ、上記のメッセージが届いた。友人は少し混乱するも、送付されたアドレスを開く。


出てきたのは、様々なアニメ、漫画、ゲーム作品の美少女キャラクター達が

自身のリクエストと同じようなシチュエーションで描かれた作品群…少し見ただけでも、数百枚はある。


初めて背中が粟立った…


(ハールと言う人物は何のために、これらの絵を集めているのか?)


「先程のコメントはデタラメです。惑わされないで下さい」


「嘘は言っていません。サイトを見たでしょう。彼はオカしいです」


「キチガイはお前、キチガイはお前」


2人の正体不明の人物が、自身のページで論争するのを呆然と見る友人は、

早くこの事態から、解放されたいと切に思った。


特に返事を返す事なく、ネットを閉じ、パソコンの電源を切ろうと、手を伸ばす。


「リクエストを受けないのですか?」


低いモザイク音声のような声が、彼の部屋に響いた。


驚き、パソコンのスピーカー設定を見るが、音は切ってある。そもそも、今の音はパソコンからじゃなかった…


辺りを見渡した後、再びデスクトップに視線を戻す。真っ黒な画面が彼を迎えた。


(?…いつの間に電源が切れた?マウスはいじってないし…)


真っ暗になった画面が一点、赤とピンクの混ざった色に変わる。次に暗転、再びの赤とピンク……


それが人の目の瞬き…それも皮を剥がれた人体模型のような人間の顔だとわかった時、友人は自室を飛び出した。


以降、ハールからのリクエストは無くなり、友人に助言したフォロワーもフォローを解除…と言うより、同二名のアカントがサイトから消失し、彼自身も投稿サイトから退会する流れになる。


そんな、彼の体験を聞き、数百枚の奇妙な情景のイラストを観た知人は、あくまで仮説と前置きした上で自身の考えを述べた。


「これと似ている…似ているようなモノで、西洋のガッツリ、オカルトの類だが、

絵に念を込める魔術、呪いの方法がある。


ある特定のキーワードを持った絵を集め、組み合わせる事によって、人智を超えた術を使う。

これらのイラストにある関連性は、全て漫画、アニメの二次媒体で、何かしらの責め苦を受けている設定…彼女達を拘束、または戒めるモノには独特の紋章、これは悪魔の印みたいな意味合いだな。


何かの術式の素材となっている印象を受ける。そして、これは、かなり妄想乙の

キモオタ解釈と受け取ってほしいが(言いにくそうに口を濁した後)


何故?二次絵、実写ではなく、アニメとか、漫画なのかと言う点においては、そもそも、この手の意味を込めた情景を実写で行うのはかなり難しい事が一番だが…


やはり、洞窟壁画や浮世絵、ルネッサンスと続く、創作者達が作品に込める想いが、術の効力を高める、人智を超えた所業を為せる最大の要因となっているからだと思う。


そして、世界の呪術に神事で共通項だが、この手の所業の、贄に選ばれるのは

若き、純潔、乙女だろ?二次媒体の少女達の大半は、該当する共通事項…それらに愛情を込めたお前の熱意が認められたんだと、考えていい」


知人の説明は荒唐無稽だったが、的を得ている。つまり、自身の創作活動に対する情熱が、何か得体のしれない目的のために利用されたのだ。何の目的かは、彼のパソコンと自室に起きた怪異が証明している気がする。


友人はイラストでの創作活動を止めた後…


現在、私と同じ投稿小説の活動を行っている。だが、彼は、不気味ではあるが、見ず知らずの他人に見いだされた創作に対する自身の意欲と閲覧者に与える影響力を見余っていたと正直に思う。


加えて、この国にも、言霊(ことだま)と呼ばれる、文字の力を重視する方術が

ある事もだ。


新しい投稿サイトで、オリジナル小説の執筆活動を楽しむ友人の元に、

ある日、メッセージが届いた。


「差出人:ハンセン


件名:リクエストしますよ


12~15歳くらいの少女が教会、宗教関連の建物に(時計台のようなモノが良いです)両手を括られ、縛り上げられている内容を含む文章を、100字以上、400字以下で作成して下さい。少女を括る縄の描写については麻縄か漁…(終)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「リクエスト」 低迷アクション @0516001a

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る