夢か現か幻か
いつから現象が始まったのかもう思い出せない。
最初は気のせいだと思っていた。
触った覚えもないし、転がり落ちる向きでもないのに小物が落ち足り落ちてたり、寝てる時に頭に落ちてきたり・・・
なんでそうなったのか分からないことだらけで、そういった現象がある日は決まって物に魂が宿ったかのように人の形をしたぬいぐるが動き出し襲い掛かってくる夢を見ていた。
頻度としてはそこまで多くもなく生活にも支障がなかったため、あまり気にしないようになっていた。
しかし、一昨年の年末の通販で興味を惹かれたドールを購入し手元に届いた翌年のお盆にそれが激しくなった。
「ただいまー。」
誰もいない空間へ声が響いた。
電気を点け、冷蔵庫を覗き、古そうなのをいくつか手に取りパパっと作って夕食を摂り、風呂へ入り、寝室に置いてある机のパソコンで生配信を見ながら彼女を組み上げていた。
他に誰もいないはずの部屋に気配を感じ、顔を上げようとした時だった。
それまで気のせいだと思っていたが、棚に置いていた動かないはずのぬいぐるみの頭がゆっくり動きこちら見ているいるようだった。
「マジか。」
小さく呟いた声が聞こえたのか、目に止まらない早さで元の位置に戻った。
これには流石に肝を冷やした。
残りをさっと組み上げ、肌着と洋服を着せると枕元に彼女を座らせお守り代わりにして眠りについた。
それからというもの彼女(ドール)にも異変が出ていた。
「なんでだろう。」
髪は伸びこそはしないが毎日のように櫛を通して綺麗にしたはずなのに、なぜか寝て起きるといつもボサボサになっているのだった。
最初は手が当たって乱れたのかなとも思い、枕元から少しずつ遠ざけてみることにした。
それから、少し経った時だった。
寝てる時に手が当たったのだと考えるだけでは済まないことが起きた。
朝起きると彼女が履いる白い合皮の靴の表面がなにかに引っ掛かれたように一箇所がえぐれていのだった。
幸いなことにも他に傷はなかった。
「なんで、こんなところに爪楊枝が?」
たしかに部屋に爪楊を置いているが、模型作成に使用するために置いたのもだが、蓋もしてあるし、そもそも使い終わったらゴミ箱に入れているし先端に塗料の付着もなくこんな所に落ちているわけがなかった。
その日の夜、それは起きた。
ふと、仰向けに寝ている私の胸が少し重くなり息苦しくなった。
嫌な予感がして目を開けると例のぬいぐるみが跨り、こちらを見ていて目線が合った。
その瞬間、ニヤリとした表情になり、右手には爪楊枝が握られていた。
まさに私の右眼球へ向かって振り下ろされようとしているところだった。
恐怖で身体も動かず、喋れもせず、『ヤバイ!』そう思っていると、
白いドレス、白い靴を履いた何かが枕元から飛んできて、それを脚で蹴り飛ばし道具置き場へ突っ込み埋もれた。
その服、そして靴についた傷には見覚えがありすぐに理解した。このまえ手に入れたドールだ。
やつを蹴り飛ばしたあと私の頭の右に立っていた。
「大事ないか?」
そんな声が聞こえたが、恐怖に震えていた私は縦に小さく頷くことしかできなかった。
「そうしたら、急で悪いんだけど力を少し貸して。私だけじゃ退治しきれない。」
何を言っているのかよくわからず私はちょっと右に首を傾げた。
「無理するな。そのままでよい。力を貸してくれるだけでよい。」
彼女の唇が私の唇と触れ合った。
その瞬間、何かを吸い取られ脱力し本当に身体を動かそうと思っても動かせなくなってしまった。
「あぁ、おいしい・・・。上質なの持ってるわね。これは欲しがって動き出すわけだわ。」
私を見つめている彼女の瞳がキラキラとダイヤモンドのように輝き、周囲はダイヤモンドダストのように輝きだした。
ガラガラッ
道具置き場の山が崩れてヤツが出てきた。その右手には今度は金槌が握られていた。
「やってくれたな。」
金槌を振り上げ駆けだそうとした時だった。
彼女が右手で指を鳴らすと氷の槍がぬいぐるみの右手、続いて身体中を突き刺し空間に張り付けして身動きを奪った。
「マスターを傷つけようとした報いを受けるがよい。」
ピクリとも動かないその冷徹な表情ではあったが怒っていることは確かだった。
いつの間にか掲げられていた彼女の開いた右手を中心に光がキラキラと輝きを増し、広がっていった。それと同時に徐々にぬいぐるみも霜が降りはじめ凍り付きはじめる。
「待て、話せばわかる。」
ぬいぐるみはそう言うが彼女は聞く耳を持たなかった。
彼女は深呼吸して息を吸い集中し、少し白い息を吐くと静かに喋った。
「我は雪の女王、アリス!汝を封印せしもの!永遠の眠りにつくがよい!」
すると、一瞬にして完全に凍り付き、氷の棺が完成した。
同時に部屋へ差し込んだ光がダイヤモンドダスト輝きだし棺が飲み込まれ、目の前が真っ白になった私は気を失った。
目覚ましが鳴り、目が覚めるとベッドの上だった。
「夢?」
しかし、道具置き場は夢の通りぐちゃぐちゃになっており、アリスの靴にも傷がある。
それに気を失う前のことが脳裏に焼き付きついていた。
「そなたの身は必ず守る。その時は力をまた吸わせてくれ。」
そう言った彼女の唇と触れ合うと今度は柔らかかった。
謎の単編小説 あらや @SANYA
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