第7話
『hiroさん、新しい髪型どうですか?』
画面の向こうのnanaさんは、ベリーショートの青い髪を撫で付けて笑っている。
「すごいな! 全然違和感ない!」
『ふふん。お兄ちゃんに頑張らせたからね!』
まるで自分の手柄のように、胸を反らせる姿が可愛い。
「あ! 前髪、少し見えてるよ」
『えっ? もう! お兄ちゃんたら、おでこ出さなくてもいいようにしてって、言ってるのに』
文句を言いながら、落ちた前髪をピンで留める。頭に手をやっても、バーチャルの髪の毛が前に出ることはないし、違和感もない。
nanaさんのお兄さんは、引きこもりの妹のために開発したらしいけど、この技術は多くの人に利用されている。特に喜ばれているのは、怪我や病気で髪を伸ばせない人らしい。
『次は新しいメイクです』
「うわ!」
一旦、モニターが消えた後現れたのは、長い金髪、小麦色の肌にヤマンバメイクの女性。
『どう? 似合いますか?』
音がしそうなほど濃く長いまつ毛を瞬かせながら、鈴を転がすような楽しげな声が問いかける。
「顔と首の色が違う」
『そっか……肌の色まで変えるのは、考えものですね』
nanaさんが、再びモニターから消えた。
「ねえねえnanaさん。そろそろお昼にしない?」
パソコンから体を離し、後ろに声をかける。
「そうですね」
黒髪すっぴんのnanaさんが、こっちを振り返った。
あれから2年。nanaさんも離島に移り住んで1年。結婚式を挙げて半年。
夜にしか出歩けなかったnanaさんも、人の少ない離島なら、昼間でも外を歩けるようになった。天気の良い日に、2人でのんびり散歩するのが最近のお気に入り。
「何にしますか?」
「パスタかな」
「昨日も食べましたよ」
「いいじゃん。好きなんだから」
「しょうがないですね」
弾むような足取りでキッチンに向かうnanaさんの後を、俺もついて行く。nanaさんもパスタが好きなのを、俺はもう気付いてる。
仕事も旅行もオンライン。だけど、好きな人との食事と飲み会は、オフライン。
なんでもかんでもオンラインでない生活を、俺達は、楽しんでいる。
オンライン生活 OKAKI @OKAKI_11
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