はじめてのホムンクルス

藤和

はじめてのホムンクルス

 念願のホムンクルスを買った。しかも、最近ハンドクラフト界隈で話題になっている清浄ホムンクルスというやつだ。

 私は錬金術には詳しくないけれども、このホムンクルスは作るときになんだか気持ちの悪いものを使わないと言うことで、清浄ホムンクルスと呼ばれている。

 普通のホムンクルスと同じくらいの値段はしたけれども、この子はフェルト製でとってもかわいい。

 着ている服も簡単なものとはいえレトロな雰囲気だし、被せられているペストマスクもミステリアスでキュートだ。とてもいい。

 これから、この子が私のアシスタントになるのだと思うと気分が弾んだ。

 このホムンクルスは、今の段階ではまだただの人形だ。

 ホムンクルスとして起動させるためには、同梱の契約書の封を切って、要項を読んで、署名欄にサインをする必要がある。

 サインをするのになにか専用のペンやインクが必要なのかと思ったけれども、普通のボールペンでいいらしかった。たすかる。

 私は早速契約書の封を切って内容を読む。注意事項もしっかり確認し、署名欄にサインをすると、机の上に置いておいたホムンクルスが地力で起き上がって、私の視線の高さまで浮いた。

 そう、この状態が私が何度もSNSやハンドクラフトのイベントで見て憧れていたホムンクルスの姿だ。

 ホムンクルスがぺこりと私に頭を下げてから言う。

「はじめまして。これからお世話になります」

「こちらこそお世話になります」

 思いの外丁寧なホムンクルスだった。

 ホムンクルスは制作者である錬金術師ごとにそれぞれ個性があるとは聞いていたけれども、その中でもさらに個体差がちょいちょいあるとも聞いていたので、気性の荒い子に当たらなくてよかったと思う。

 ホムンクルスがじっと私の方を向いてさらに言う。

「これから色々なことを教えて下さい」

 そう、ホムンクルスをアシスタントとして使う上で、自分の生活にフィットするよう色々なことを教えなくてはならない。

 でも、それはそれとしてホムンクルス自身があらかじめ知っていることもたくさんあるはずだ。それがホムンクルスの売りなのだから。

 なので私は訊ねる。

「あなたはどんなことを知ってるの?」

 するとホムンクルスは、首を少し傾げてからこう答える。

「私が答えられるのは日々のニュースとお勧めの本。あと、季節ごとのお勧め観光地です」

 そう、このホムンクルスを作った錬金術師はアウトドアに強いと聞いて、この制作者のホムンクルスを買ったのだ。旅行するときは頼ろう。

 私がそう思っていると、ホムンクルスは続けて言う。

「これ以外にもお答えできることはあると思いますし、思いの外お答えできないこともあるかと思います。

とりあえず、気になったことは気軽に訊ねて下さい」

「なるほどね」

 なにを知っているかまでは、ホムンクルス本人も全部は把握していないのだろう。

 でも、気になったことは気軽に訊ねてと言われても、まずなにを訊ねてみればいいのだろう。

 今すぐになにかを訊ねなければいけないわけではないけれども。

 ああ、でも、これは訊いておかないと。私は浮かんだ疑問をホムンクルスに訊ねる。

「あなたの名前は?」

 ホムンクルスはくっと嘴を上げて返す。

「まだありません。呼びやすい名前でお呼び下さい」

 なるほど。好きに名前を付けていいのか。たしかに、商品として並んでいるときは番号が振られているだけだった。

 そんなホムンクルスに、私はどんな名前を付けたいだろうか。しばらく黙って考えて、私はホムンクルスに笑いかけて言う。

「よし、それじゃあ、今日からあなたの名前は……」

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