第12話

取材も多く受けたが、神主はみな快く引き受けたので、事件の全貌が細かく伝わることとなった。

綱につるしていたお守りは神社でも売られていたが、すぐに売り切れ、ネットで大量の偽物が売られるようになった。

挙句の果てには学校側にも神社側にも許可を取っていないというのに、テレビ化や映画化が決まった。

それも日本だけではなく複数の国でだ。

出版を進める出版社も多く出たが、それは神主全員が断った。

一方学校側、とくに校長だが、少し困ったことになっていた。

幽霊がいなくなり、不登校の生徒たちは戻り、親からのクレームも近所からの苦情もなくなったのだが、校長が地面のお札を処分するように業者に指示していたことが、業者の証言から世間にばれてしまったのだ。

テレビ局や新聞も話題にしたが、それ以上に盛り上がったのがネットである。

毎日のように校長に対する批判の書き込みが大量になされ、普段ネットなどしない校長の耳にも嫌でも入ってきた。

――ちょっと困ったことになったぞ。

しかし校長は考えた。

自分はネットなど見ないし、校長なのでこれ以上の地位は望めないし、それにあともう少しで定年だ。

だからたいして問題はないだろうと考えた。

しかしネットの特性上、定年した後も少し困ったことになるということを、この時の校長はわかっていなかった。


神主は目の前の人だかりを見ていた。

初詣の時でもこんなに人出はない。

まるで比べ物にならない。

小さな賽銭箱はすぐに満タンになってしまう。

だから一つだった賽銭箱は左右に追加され、今では三つになっている。

――あんな霊を一つ封印しただけで、ここまで有名になるとは。

昼間でも大勢の人にはっきりと姿を見せるという普通の幽霊にはない特異な能力と、行動範囲が広いという点をのぞけば、それ以外はどこにでもいるありきたりの幽霊だった。

霊力もさして強くはなかった。

――まああれだけのテレビカメラにはっきりと映ったからな。

とにかく今まではのんびりと神主をやっていたが、この状況ではそんなことも言っていられない。

ただ神主には気になることが一つあったのがだが、それも多忙と言う名のもとに忘れてしまった。

神主が一つだけ気になること。

それは地中の棺桶に幽霊を封印していたのであれば、なぜ棺桶ではなく地上の土の上にお札が貼ってあったのだろうか、ということだ。

通常なら棺桶に直接お札を張るのが正しいやり方だ。

神主は後々のためにもその点をもっと気にするべきだった。

なぜならあの幽霊はあの棺桶の中に封印されていたわけではなかったからである。

あの棺桶はあの世とこの世をつなぐ門であり今なお開かれている道であり、女の幽霊はただその道を通って来ただけなのだから。


       終

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人類史上で最も世界的に有名になった幽霊の話 ツヨシ @kunkunkonkon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ