富士子、コロンパあらわる

 一度は客車に入っていったウイザードでしたが、すぐに出てくると、

「ウーン、ルンパ四世は無理みたいだな。代わりにコロンパ三世という話になったよ。」

残念そうに言っていました。えっ、どうやって連絡? それに誰と? 魔術を使うのならわざわざ客車に戻らなくても~入っていったということは車内に何か・・・、電話それとも無線機? 何から何までよく分からない世界です。そんな事を考えていると、白鬼が、

「ふーん、ルンパは無理なのか。奴さん、けっこうあっちこっちから声がかかっているのかもしれないな! 一緒にいればにぎやかで楽しいから、それはそれでしかたないぜ。ただ・・・、やることは素早いが、時々ヘマをするから困ったもんだ。それに引き替え、コロンパはねちっこいと言うかじっくりタイプだから仕事は確実、今回は、コロンパのほうが適任じゃあないのか。」

 ものの怪が、人~いえ違った、同類を評価? 評価するのは人間の特権だと思っていましたが、人間だけではなく妖怪も? とはいえ白鬼や緑鬼を妖怪といえるのかどうか~僕には・・・。鬼たちにはオドロオドロさがなかったので、妖怪と呼ぶのも少し・・・、どう言えばいいのか分かりません。

しかし・・・、集まりというか組織というか、何人かが集ってある目的のために一緒にいると、他のものを評価してしまう~ああでもないこうでもないと、自分を差し置いて品定めしてしまうのが、世の? 常のようです。白鬼は続けて、

「そうか、富士子が来るんだよな。ルンパなら富士子ちゃーん、富士子ちゃーんってうるさく騒いで富士子やみんなを困らせてしまうが、コロンパはその点、問題ないぜ。なにせ、かみさんがいるから、うかつなことも言えないしな。」

 自分で言って笑っていました。それどういうこと? 緑鬼もうなずきながら、

「そうとも。ルンパの野郎、トコトン女好きだから、盛りがついた猫と同じだが、コロンパならなんの心配もいらねえ。」

 盛りがついた猫? しかしコロンパは大丈夫と言うことは~犬? どこまでも理解できない僕なのですが、ぼろくそに言われているルンパが『富士子ちゃーん』と事ある毎に言っているらしい『ボンギュボン』の姉ちゃん・・・、その噂の人? がテレビや舞台でスモークを焚いた時のように、霧の中からあらわれていました。

 僕は思わず・・・、いえいえ、誰が見ても・・・。たぶん超可愛いと思うはずの女の子? 女の人? そのためヨダレが! ヨダレのもとは身につけた虎柄の布? 本物の虎の皮? のブラジャーと、やはり虎柄? 虎の皮? のショートパンツ。しかもカモシカのような脚には、これまた虎柄? 虎の皮? のロングブーツを履き、霧の海に長い髪をなびかせてあらわれていたのです。

しかし・・・、柄なのか皮なのかは別にしても、虎柄ということは鬼の親戚? 僕は昔、聞いたことが~それとも読んだ? どっちだったか覚えていませんが、鬼は虎の縞々パンツをはいているという記憶が・・・。あれっ、よみがえった? 再々あることなのでよみがえったかどうか分かりませんが、頭に浮かんでいました。

でも・・・、白鬼と緑鬼は縞々パンツをはいてはいません。縞々パンツをはいていない鬼~これは俵屋宗達の手抜き? どうなんでしょうか。それはともかくも、そんなことをああでもないこうでもないと考えていると、

「この、エロガキが・・・。お前、どこを見ているんだ? 目はたれるわ、ヨダレはたらすわ、ルンパと同じか!」

 緑鬼に、突如、どやされたのです。鬼は心が読める? 僕はとっさに、

「ち、違いますよ。そんな・・・、ヨダレなんか出していません!」

 誰が考えてもまずい・・・、そのため緑鬼は速攻で、

「ウソこけ!」

 僕の顔をのぞき込んでニンマリしながら言っていました。ムキになった僕は、 

「ウソじゃありません、ヨダレなんか出していませんよ!」

 悲しいかな言い訳~反論してしまいますが、ウソこけ・・・、屁をこく・・・、これは同じ使い方? またまたそんなどうでもいいことを考えていると、いつの間にか桜島富士子が僕たちのそばまでやって来ていて、

「ハーイ! みんな元気?」

 素晴らしくチャーミングな笑顔を振りまいていました。途端に鬼二人? は、肘で突き合いだします。もしかして・・・、ルンパ四世と同じ? 二人? 二匹? も、女性が大好き? 先ほど緑鬼にからかわれた僕でしたが、そっくりそのまま返したく・・・。

そんな僕と鬼たちでしたが、ウイザードは~おふざけなど無縁のウイザードなので、桜島富士子の顔を見た途端、

「富士子、申し訳ない! 私がいたらなかったばかりに、見習いの女の子、二人を、しらゆり・シンデレラにさらわれてしまった。君の力が、どうしても必要なんだ。」

超真面目~もしかして余裕がない? それは置いておくとしても切羽詰まった顔で言ったのです。ところが富士子は、

「あんたがついていて、ドジなことしたわね。」

 サラッと口にすると、声を上げて笑っていました。それ皮肉? それとも余裕? 人の考えなど僕には・・・。けれども、さらわれた子たちを助け出すということは桜島富士子はテレビや映画に出てくる特殊部隊? または工作員? 想像が膨らんでしまいますが、ウイザードは、 

「私のミスだ。まさかここに、あの婆さんが潜んでいたとは・・・。」

 湧き上がる感情に振り回されているようです。

僕は鬼たちにからかわれるのがイヤで、極力、桜島富士子を見ないように・・・。そして生きもののように湧き上がっては沈み込み、渦を巻く霧に目を向けていましたが、誰かがまたまた霧の中からあらわれていました。見るとヨレヨレのコートをまとい~トレンチコート? ぼさぼさ頭の男の人が霧をかき分けながら前屈み気味でやって来ます。

遠目とはいえないまでもそれなりに距離があったので、僕にはボワッ~くっきり、はっきり見えないのですが、白鬼には見える? 鬼の視力はどんだけ! 

「おっ、コロンパ。久しぶりだな!」

 懐かしそうに手を上げていました。コロンパと呼ばれた人は歩くスピードが遅い? 焦る必要がない? のか時間をかけてやってくると、モジャモジャ頭~すごいです、しかもなぜかはすかいに~目に障害? それともくせ? とにかく白鬼をはすかいに見ながら、

「やあ、お久しぶり。」

手を上げると小さく振っていました。すると・・・、鬼って言うのはハイな性格? それともよく知っている? 僕に分かるはずもないのですが、

「ああ、俺たちはいつも元気さ。元気が余ってどうしようのないぜ。」

 馴れ馴れしく言うのです。言われてモジャモジャ頭の人は、

「うちのかみさんがね、生きていくうえでいちばん大切なのは健康だと言ってたよ。」

白鬼もうなずきながら、

「そりゃそうだ、病気じゃなんにもならんからな。」

 しかしじゃもじゃ頭の人は白鬼の言葉を遮るように、

「君、ライターかマッチ持っているかな?」

そして素早くタバコ? 本人と同じようにクシャクシャ~いえいえ、無理矢理、縮めたようなタバコ? らしきものを口にくわえていたのです。白鬼は一瞬、戸惑った? 

「う、うん? 火か・・・。火ならあるぜ。」

 ボソッと言いますが、イタズラっぽく、

「稲光だがな!」

 まるでファイト一発~記憶が戻った? もう面倒くさいのでそれはやめますが、もじゃもじゃ頭の人は、 

「オットット・・・、それは遠慮しとくよ。」

 そして手をヒラヒラさせると、足をひこずるようにしてウイザードのところにいきます。気がついたウイザードは桜島富士子から目をうつすと、

「やあ、コロンパ、よく来てくれたな。今も富士子に話していたんだが、しらゆり・シンデレラに見習いの女の子、二人を拉致されてしまった。」

 聞いてコロンパという人は右手の人差し指と中指を額に押し当てると、

「あのシワシワ婆さんか・・・。あこぎなこと、この上ないから、ウイザードじゃ、まだ無理かも。」

「ええ、まだまだ僕では歯が立ちませんよ。」

「そんな事はないと思うが・・・。なにせあの婆さん、五百年以上生きているから、ちょっとやそっとじゃ降参することなどあり得ないし、必ず反撃してくるはずだ。」

すると黙って聞いていた富士子は、

「なにを二人で弱気なことを言っているのよ! 私がいれば大丈夫。」

 言われてコロンパは、

「うーん、なかなか・・・。富士子ちゃん、そう簡単にはいかないぞ。」

 強気の富士子と、慎重すぎて弱気としか見えないコロンパ・・・。どうしてこの二人をウイザードは呼んだのでしょうか? ウイザードは二人を見ながら、

「グズグズしていたら、あの子たち、本当に暗黒に染まってしまうかもしれない。急なお願いで悪いんだが、できれば一刻も早く助け出してもらいたい。」

「そう、そういう事よ。コロンパ、早く行ってすましましょう。」

言いながらコロンパの手を握ると、力任せに引っ張っていこうとします。ところがコロンパはウイザードを振り返り、

「あと、一つ・・・。しらゆり・シンデレラは、一人だった?」

とたずねていましたが、もう桜島富士子は霧の海から飛び上がっていたのです。ところがコロンパは・・・、ハテ? 手を握られていたはずなのに姿が見えません。霧の海に沈んだ? でも、いったい何が? すると、霧の海で何かが激しく動き回っています。するとコロンパは助け? いえ違います、困ったような声を上げていたのです。

「ふ、富士子・・・。悪いがこいつを・・・、何とかしてくれないか!」

 何があったのでしょう。霧がジャマしてよく見えませんが、もしかして何かと~何かと闘っているのでしょうか? 予想に違わず、

「こ、こいつが、じゃれてきてたまらないんだよ。」

 困ったように言っていました。それはぶっとい・・・、大人の胴ほどもあるような茶色いものがコロンパに巻きついていたのです。そのうえ吸盤! なんで吸盤? まるで大きな皿のようなものがいっぱいついています。もしかして蛸? なんと蛸がコロンパに巻きついていたのです。あらがうコロンパ・・・、まるでアナコンダかアニメニシキヘビに巻きつかれているかのように締め上げられています。

コロンパは必死にふりほどこうとするのですが、多勢に無勢? 使い方を間違えました! 体格が違ううえに相手は腕? 手? が八本! それに引き替えコロンパは手足を入れても四本なので、とうてい勝ち目がありません。その時でした。舞い上がった富士子が気づいたのでしょう、両手をあげると手の平から青白いものを・・・、青白い光が放たれていたのです。

やったあ! ところが・・・、見事にはずされてしまいます。とはいえ蛸は巻きつかせていた腕? 手? をコロンパから離すと~どうしたことでしょう? 毬のように丸まってしまいます。命中してもいないのに、死んでしまった? 気絶した? いえいえ、そうではありません、蛸は身を守ろうとして、急所である眉間を防衛していたのです。

丸まって動こうとしない蛸をコロンパはいまいましそうに睨んでいましたが、蹴ろうと~ところがデカい・・・、自分より何倍も大きかったのでため息を吐くと諦めた? さっさと蛸を後にすると、

「ああ・・・、死ぬかと思った! 富士子、ありがとう。」

そして片手を大きくあげ振ると、もみくちゃ~いえいえ、ズタズタにされたコートやひん曲がったネクタイを整えていましたが、なにやらブツブツと言いながら、モジャモジャの頭をかきかき霧の海に消えていきます。ウイザードや鬼~当然、僕もですが、それに占星術の子や絵や文字が浮き出る本を持っている子、また女の子たちも、突然の出来事に呆気にとられていました。

人であろうが、物の怪であろうが、身につけた常識的な情報というか思い込みというか・・・、こうなるものと思っていたものが覆される状況を見てしまうと、頭~思考が停止するみたいです。それはさて置き、桜島富士子やコロンパ三世が去ると、ウイザードは僕たちを手招きしていました。たぶんみんなもそうなのでしょうが、興奮冷めやらぬ状態の僕は手招きされて『何事?』と思って寄っていくと、

「聞いてくれ。考えてもいなかったことが次から次に起きて、思いのほかここでたくさん時間を費やしてしまった。そうでなくてもすでにスケジュールに支障をきたしているので、すぐにでも出発したいと思うのだが、みんな、忘れ物のないよう準備をしてくれないか。」

と強い口調で言っていました。


                        TO be continued

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ET・T Rev ゆきお たがしら @butachin5516

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