少女→老婆? わけが分からん

 ガチャ、ドスンと戸が・・・、安普請のアパートは戸一つとってもなどとゴチャゴチャ文句を言っていると大家さんに~大家さんごめんなさい! まあ、いくらケチをつけても結局は我が家に他ならなかったのだが、それはさて置き、ET・Tの奴が帰ってきていた。

 どこに行っていたのか? 人の考えは~ハテ、ロボットは人? うーん、どうなんでしょうか・・・、またまたパクってしまったが、分かれば、わたしの頭は超、理論的! しかしそれは絶対にない~などとくだらないことは考えないとして、知らぬ間にいなくなったET・Tだがポンコツゆえに世間様に迷惑をかけないかと~アッハッハ、誰が心配するか! まあ、それはそれとして、肝心かなめなときに~列車はどうやって宙を飛んだのかと聞こうと思っていると、姿を消していたのである。

 帰れば当然、台所~調理台の前でいったん立ち止まるはずなのに、そのまま部屋に入ってくるなり開口一番、

「ヤー、まいった、まいった。」

 わめいていたのだ。はあ? 何がまいったのか・・・、しかも、そんなおおきな声を出す必要があるのかとウンザリしていると、

「ちょっとそこまでが、思いのほか長くなってしまって。」

 いいわけを言い出したのである。だが、いつものことなので~人工知能の性能と説明能力はトレードオフの関係だから、通常、ロボットに言い訳などありえないが、ET・Tは、あまりにも人間的な? つまりは・・・、AIの性能が悪い! ガハッハッハ、それを言っちゃあ、お終いなので、

「いったい・・・、なにが長くなったんだ?」

「じつは、霧の海駅まで行ってたものですから。」

「うん?」

 開いた口がふさがらないとは、こういう事を言うのだろうか・・・。おもわずウソこけ! ウソこけ~屁をこく・・・、動詞『こく』の五段活用? ああ、貧弱なわたしの頭! まあ、そのことは問わないとして、いったい何処まで行っていたのだろう? 

 もしかして友達のVR8と長々とだべっていた~またまたどうでもいいことではあったが、

「それはそうと、ET・T。自分で執筆しておきながら自分を登場させた?」

「エヘッ! もうそこまで読みました?」

 ぬけぬけと!

「ああ、読んだよ。それで、君とムカデの化け物はどうなったの?」

「わたしは不死身ですからムカデの化け物をふりほどくと、ワープして戻ってきたのです。」

 なんというムカデにも劣る『虫』のいい設定・・・。しかもワープした? どこまでもいい加減な~しかし間抜けというかなんというか、つい、わたしも付き合うと、

「ワープと言えば映画なんかでよくある・・・、光りのトンネルを抜けるとか、光りの洪水を浴びながら、他の場所にたどり着くやつ?」

「そう、その通り! カッコいいでしょう。」

 はあ? 確かに・・・。カッコいいと言えばカッコいいが~バカバカしい、そんなことあるか! と言いたくなってしまうのだが、それも置いておくとして、

「それで、次はどういう展開になるの?」

「読んでいないのですか? えへへ、快刀乱筆さん読んでのお楽しみですよ。」

 クソ、このポンコツ野郎が!


 僕はロボット車掌さんの無事を~でもどうすることもできません、ただただ、祈るばかりでした。そんな僕を~心配に心奪われている僕をウイザードは気遣ったのか、                     

「君・・・。霧の海駅を出たら次の駅までかなり長い間、座っておかないといけないので、体をほぐすためにもいったん降りて、少し歩いておくほうがいいと思うよ。」

 アドバイスしてくれます。

 先ほどまで~あんな恐ろしい思いをしたのははじめてで今でも体の震えがとまりませんが、そんな僕を心配してくれたのか、よそよそしかったウイザードが親身になってくれていました。

「そんなに長く・・・、乗るのですか?」

「ああ、これから先が長いんだよ。」

 どこまで行くのでしょう・・・。わけが分からないまま、とんでもないことに巻き込まれた! どう言えばよいのか・・・、そのためキョトキョトする以外にやりようが。そんな情けない僕でしたので、ウイザードの言葉にしたがい降りようと立ち上がった瞬間、鬼たちが~どうしてこれから先が長いことを知っているのか? 白鬼も緑鬼も僕を押しのけ、さっさと降りていました。

 鬼たちの背中を見ながら僕も・・・、でも不安でウイザードを振り返ると、女の人~副校長となにやら話し込んでいます。一瞬、姪御さんはと思いますが、僕が口出しすることでもないため足をステップに~でも、どうすればよいのか分からないまま降りてみると、霧の海駅という名のとおり辺り一面~見渡すかぎり濃い霧が覆っていたのです。

 あまりの霧の濃さに、足下が見えません。どうなっているのか? しかし先に降りた鬼たちが走っていったのでたぶん大丈夫だとは思うのですが、鬼たちは空を飛ぶ~雲に乗って移動しているわけですから、たとえ霧の下が空であっても、また水であっても、関係ないはずでした。問題は僕で、もし空だったら真っ逆さまにおちてしまいますし、水~僕は泳げなかったので、おぼれてしまうかもしれません。

 まとわりつく霧を手ではらい、僕は足の裏で確かめます。するとごつごつしたものでできているみたいで、おそれていた~おちることも溺れることもないようなのですが、ひとつ疑問が~霧の海駅? いったい海はどこにあるのでしょうか? もしかすると海などなくて、海のごとく霧があるのを言い表した名前・・・、なのかもしれません。

 それはともかく、霧に埋もれたまま歩き出し鬼さんたちはと? 探しますが、もう見えなくなっていました。でも行動を共にする気などサラサラなく~僕は行ける範囲で・・・、というのも着ているものが夏服で、普通~何が普通かはさて置き、常識~それよりなにより授業で習っていたのは、霧や層雲の発生は秋から春先、時間としては夜明けから早朝、しかも放射冷却によってよく冷えたというのが霧の発生の必要条件でしたから・・・。

 ところが鬼たちはパンツ一丁で、一目散に駆けて行っていたのです。確かに僕と鬼では体力~気候に対する耐性力が違っているので、油断しているととんでもないことになるのは間違いなかったのですが、夏服の僕でも不思議なことにまったく寒くありませんでした。どうして? 思わず首をひねってしまいますが、 グチャグチャ考えても分からないものは分からないので、先に進んでみることにします。

 霧をかき分け~舞台などで使われるドライアイスも同じ? しかし、ここの霧は少し変! 体にまとわりつくというか、手で払っても、払っても、追いやることができず、しかもピタッとひっついてきていたのです。粘着テープがついているような煩わしさにウンザリしてしまいますが、我慢して進んでいると何かが白くボォーと~霧? いえ違います、塊のようなものが見えていました。

 目を思わず凝らすと、白くダボダボの服を着た男の子や女の子が胸の辺りまで霧に埋もれて、チラリホラリ~あっちに立ち、こっちに立ちしています。途端に・・・、どう言えばよいのでしょう、鬼やウイザードとは~ウイザードも人間? それを知る術はなかったのですが、やっと人に出会えたと思うと喜びがわき上がっていました。

 さっきまでどうなることかと心配の塊だった僕なのですが、同い年くらいの男の子や女の子~同い年かどうか? でもウイザードや鬼たちとは質問はできても僕の立ち位置での会話はできなかったので、この子たちならきっといろいろ話ができると思うと藁にもすがる気持ちになります。

 いちばん近くにいたのは男の子~僕は女の子が苦手でラッキーと喜び勇んで駆け寄りますが、その子は立ったり、しゃがんだりしながら本を~なぜ、立ったり、しゃがんだりしているのか? 不思議な動作をしていました。しかも・・・、なんということでしょう! 手にしている本は、まさしくあの本? でも、記憶がなくなっていたのに・・・、よみがえった? それは分かりませんが赤黒い表紙の本を手にしていたのです。

 そのうえひらいているページも青い色で、字も自動~白い文字が次から次に浮かび上がっていました。ただしその子は僕と違ってペンを・・・、加えて文字だけではなく絵~ページいっぱいに、絵が浮き上がっていたのです。あの本とは少し・・・、しかしあまりにも似ています。絵が浮き上がるのは違っていても、文字はあの時と同じように~もしかしてこれは・・・、僕の心に期待が湧き上がりました。期待が全開で膨らみロケットスタートをきりますが、その後をちょっぴりと不安も追いかけていました。でも・・・、もしかしたら元の世界に戻れる? 僕は思い切ってその子に話しかけます。 

「悪いけれど・・・、その本、どうしたの?」

「う、うん? この本が・・・、何か。」

「僕、その本を見たことがあるんだ。僕が見たのと同じ本かと思って・・・。」

 途端に、その子はイヤな顔をすると、

「これは母さんからもらったものだ。君が言う本とは違うんだから、あっちに行けよ。」

「しかし・・・。」

「煩わしい奴だな。向こうに行けと言ったら、行けよ!」

 追い払うように招き猫? 『おいで、おいで』をしていました。言ってることと、やってることが違う? とにかくよく分からない子なのですが、そうは言っても僕に残された唯一の手がかり~あの本しか元の世界に戻れる方法は・・・。他に方法がないので、どうしても未練たらしく見てしまいます。

「君はどうして、立ったり、しゃがんだりしているの?」

 ダメ元でたずねると、

「同じ姿勢でいたら、筋肉が固まるからだよ。」

 さもバカかという顔で言いました。そして未練たらしい僕の視線に気づくと、背を向けるようにして本を隠し見ます。

 『違う?』、どうしてもそうは思えないのですが、取り付く島が・・・。しかたなく後でもう一度と僕は思い直すと、先に進んでいました。すると音が・・・、今度は本当に書く音がしていたのです。男の子がホワイトボードを前に、なにやら唸りながら書いています。見るとボードには数式が洪水のように溢れ、しかも星座というか、天体が描かれていました。

「君は天体物理学でも勉強しているの?」

 声をかけますがシカトされ、そこで、

「ダークマターとか・・・」

 なおも続けると、うるさそうに、

「勝手なことを言うなよ。僕は、占星術の勉強をしているんだ。」

 占星術? 聞いた瞬間、僕の顔にはハテなマークでも並んだのか、

「まあ君に理解を求めるのは、ムリかもしれないけれどね。」

 と突き放したように言いますが、どこかうれしそうに、

「少しだけ説明してあげるよ。天文現象は・・・。」

 分かるかなと顔をのぞき込んでいました。僕も多少? は~天文とは地球があって月があって・・・、それがどうしたと言うことにはなりますが、そんなあれこれ思う僕など関係ないとばかりに、

「早い話が、太陽や月、惑星、小惑星の位置や動き~天文現象を材料として、未来を予測する占いなのさ。これを天文占星術というんだが、日月食、日月の暈、諸惑星の離合集散、掩蔽現象、彗星、大流星雨の出現など、天空の異常現象が地上に及ぼす影響を調べているんだ。まあ君に理解を求めるのは、無駄かもしれないけれどね。」

 何も知らない僕なので分からなくて当たり前でしたが、同じような年齢・・・、なんか小馬鹿にされているみたいで、ムカッとしてしまいます。僕のひがみでしょうか?

「そ、それで・・・、どんなことが分かるの?」

「例えば・・・。」

 その時でした。少し離れたところにいた四人組の女子~そのうちの一人が、

「ねえねえ、みんな! 知っている? 魔王って、みんなが良い王様だって言っているけれど、本当は悪い王みたいよ。」

 口に手を当て押し殺した声で言っていたのです。ところがここは・・・、霧の海駅はあまりにも静かで、ひそひそ声でもはっきり聞こえてしまっていました。

「ええっ! ウソだぁ。そんな事ないわよ、あなた、暗黒王と勘違いしているんじゃないの。」

「そうよ、そうよ。魔王様はみんなが幸せになるよう、いつも考えてくれているのよ。」

「そう思う? 私にはそうは思えないわ。本当にそう思っているのなら、なんで私たちの知っているいろんな人が向こうにいってしまったの。」

 聞いて三人は押し黙りますが、しばらくして一人が、

「そうね、私の従兄弟も暗黒王のところに行ったはず・・・。」

 ぽつりと口にしていたのです。しかし、ほかの二人は、

「私、よく分かんない。だけど、私は魔王様を信じたいわ。」

「そうね、暗黒王は悪い王よ。」

 と言いますが、どこか気持ちが揺れているようです。そんな二人に言いだしっぺの少女は、

「へえ、そうかな? 私には、魔王は悪い王としか思えないわ。」

 なんとくさびを打っていたのです。二人は驚きの表情と共に、

「そんなことないはずよ。」

 口をそろえ強い調子で否定していました。

 一人と二人が言い争っていると、いつの間に汽車を降りていたのか、ウイザードが猛烈な勢いで~空に舞い上がるときの列車のような勢いで、やって来ます。そして言い出しっぺの少女に向かい、

「しらゆり・シンデレラ! どうしてお前がここにいるんだ。」

 怒りもあらわに言いよっていたのです。しらゆり・シンデレラ・・・、それ名前? だとすれば、しらゆりは白雪姫のアダナ? シンデレラはあのシンデレラ? 分からないものは分からないのですが、しらゆり・シンデレラと呼ばれた少女は突然、叫ぶようにしわがれた声を出すと、

「この青二才が、私のジャマをするつもりか!」

 口汚い言葉でウイザードに眼を飛ばしていました。驚きの展開に僕は言い出しっぺの少女を見ると・・・、なんと老婆! 少女→老婆? わけが分かりません。

「この子たちは、私のものだ。お前は、引っ込んでいろ!」

 みるみる目が真っ赤になり、口は裂け~それはありませんが、深いしわが刻まれたどす黒い顔になると、ミイラか悪魔のような手で少女二人の手首をつかみ、凄まじい形相でウイザードに目を据えます。

「きゃあ・・・。」

「助けて!」

 その時でした、鬼たち~白鬼と緑鬼が悲鳴を聞きつけた・・・、いったい何処にいたのでしょう? やって来ると、白鬼は老婆めがけて稲妻~目にもとまらぬ早業とはこういう事を言うのでしょうか、投げつけていました。するとウイザードはウイザードで、何やら呪文のようなものを唱え出していたのです。

「シワシワ、カサカサ、ガサガサ・・・。」

 呪文を聞くと老婆は、苦しそうに顔や喉に手をやり呻るような声で苦しんでいましたが、それでも稲妻はなんとか避けます。そうして・・・、黒い服に赤黒いマント、黒のとんがり帽子を被った姿に変身し、少女二人の手首を握ったまま霧の海に消えていました。

「クソッ! 当たらなかったのか?」

 白鬼が悔しそうに言います。僕がウイザードはと見ると、顔を歪め悔しそうな・・・、何か自分を責めているみたいに唇を噛みしめていたのです。そんなウイザードを緑鬼がなだめるように、

「しかたないさ。まさかここにまで暗黒王の手が伸びているとは、誰も分かるわけがない。」

 いったい・・・、何がどうなっているのか、僕にはさっぱりでした。憤懣やるかたないといった感じのウイザードは、しらゆり・シンデレラと呼んだ老婆が消えた方角をにらんでいましたが、一度、頭を振ると、

「まさか、あいつが! 私たちをつけていたのか? それともここに来るのが分かっていて、潜んでいた?」

 唇を真横に結び、ささやくように言葉を吐きますが、 

「きっちり報告しておかなくては。」

 今度ははっきりと口にしていました。聞いた緑鬼は、

「おいおい、ウイザード。報告するのはいいが、あの子たちを取り戻さなくてもいいのか? 助け出してやらなくては、可哀想だぜ。」

「ああ・・・、それは分かっている。どうすれば・・・。」

 宙に目を泳がせますが、

「うん、すぐにルンパ三世と桜島富士子に連絡してみよう。」

 決断したように言います。すると白鬼は、

「おっ! ボンギュボンの、あの姉ちゃんか。」

 うれしそうに言っていました。『ボンギュボン?』、『姉ちゃん』、僕は緑鬼の手首に指を当て、

「ボンギュボンって、なんですか。」

 思わず尋ねますが、

「子供のオメエが知る必要はないんだよ。」

 なんとも軽くあしらわれていたのです。 


                        TO be continued


 ※占星術とは、コトバンクから


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