ロボット車掌と僕のニセモノ
コッペパンひとつにコロッケみっつ、それとトマトジュース・・・、今日の食費で買えるのはこれが精一杯! ウウ、涙、涙。だが、いつものことなので意に介さず意気揚々? とアパートを目指し、パクリ屋! ET・Tの原稿の続きを読むことにする。
ところが帰ってみると、ET・Tがいないのだ。だが原稿はそのまま置いていたので、『まっ、あいつがいなくてもどういうことはないか』と思いながら読んでいたが、どうしても引っかかるところが・・・、どうやって列車は空を飛んだのか?
『う~ん、どうなんでしょう・・・』、ああ、またまたパクってしまった! もしかして、これはわたしの十八番? 私を見ていてET・Tはパクリ屋になった? まあ、それは置いておくとしても、私なりに考えると、列車の車止めを応用~航空母艦のカタパルトを真似て空に向け大きくそらし、そこめがけて猛スピ-ドで走って行き、空に舞い上がったとしか考えられないのだ。だが、本人がいないので確かめようもなかったが・・・。
猛烈な勢いで飛びたった汽車から下を見ていると、すべてが箱庭のよう・・・。背高のっぽのビルも、うっそうとした森を城壁のように巡らした神社も、趣向を凝らした庭を面前、または左右に置いたお寺も、そして天まで届けとばかりに尖った帽子を被っている壮麗な教会も、白いロケットのような塔を幾本も並べ丸い頭をした巨大なモスクも、あっという間に積み木くらいの大きさから米粒・・・、そして点になっていました。
初めて見る景色に心、奪われる僕でしたが、『ああ・・・、僕はもう帰ることができない!』、一瞬にして自分の立ち位置に舞い戻っていたのです。その時でした、通路のドアが開き制服を着た・・・、ブリキ? いえいえ、普通のロボット~何が普通かはさて置き、ロボット車掌さん? がやって来ていたのです。
列車はものすごい勢いで舞い上がっているというのに、ロボット車掌さんは普通に歩いて~何が普通? それはともかく、顔が~鼻も、口も、耳もついていない・・・、つまりはのっぺらぼう! 卵形の顔に大きな~マンガかアニメのような目がついているだけのロボットなのですが、普通に歩いて僕たちに近づいてきます。
僕はジロジロ~誰だって見たこともないものを見れば、じっと~それか目をそらすかでしたが、僕の場合、じっと見ていると、ネームプレートにET・T・・・、どこかで? どこで見たのか思い出せませんが、すぐに思ったのがへんてこりんな名前! でもロボットだったらそれもありかなと自分で納得していると、後ろに~僕と同じくらいの男の子がついてきていたのです。
ロボット車掌さんはウイザードを見て軽く会釈をし、後ろにいた男の子を前に押し出すと、
「おタクの生徒さんではないですか?」
尋ねていました。ウイザードは顔に戸惑い? 否、怪訝な顔つきで男の子を・・・、そしてロボット車掌さんに目をやっていましたが、
「当校の生徒?」
聞き返します。ロボット車掌さんは~たぶん想定していなかったウイザードの反応なのでしょう、一瞬、躊躇すると、
「いえ、本人はなにも・・・。ただ一号車でポツンと~親御さんもおらずひとりぼっちで座っていたものですから、もしかして天の川銀河学園の生徒さんかと思いまして、連れて・・・。」
言われてもハテなマークが並んだようなウイザードなのですが、手帳から紙を取りだし、男の子を見ると事務的? に、
「君の名は?」
問われて男の子はどこか当惑しながらも、
「僕、なんでここにいるのか・・・、よく分からないのです。本当に・・・、分かりません。」
「う、うん? 分からない! それはどういうこと・・・、もっと詳しく説明して欲しいんだけれど。」
「それが・・・、気がついたら停車場にいました。」
「停車場に?」
「はい、停車場です。」
不可解といった言葉がぴったりのウイザードは、その子をジロジロ・・・、そして僕は男の子の言葉に戸惑っていました。停車場? 僕も停車場にいたのに・・・。男の子がいたなら、きっと気づいているはずですが、ウイザードや鬼さんたち以外~いえ、副校長と呼ばれる女の人もいましたが、ほかには誰も見ていません。いったいどこに・・・、この子はいたのでしょう?
とはいえ、あまりにも状況が僕と同じで、どうしてもその子を見てしまいます。すると、手に本~例の本? 記憶がよみがえりました、あの本を持っていたのです。え、えっ・・・、なんでその本を! ビックリすると共に、もしかしてこの子も・・・。そう思うと僕の胸にかすかな希望~家に帰れる? 淡い希望が芽生えていました。
「なるほど。それで君は・・・、列車に乗った?」
確認するようにウイザードは聞きます。
「はい。みなさんが列車に乗ったものですから、つい僕も・・・。もしかして、家に帰れるかと思って。」
彼もあの本のせいで異世界に紛れ込んでしまった? ますます僕と同じではないですか! ウイザードは紙に目をおとしていましたが、
「それで、君の名前は?」
再び尋ねます。
「それが・・・、思い出せないんです。霧に包まれたように記憶が薄れていっていて・・・、自分の名前が思い出せません。」
なにもかもが、僕とそっくりです。
「それは困った! じつはもう一人・・・、停車場にいて、君と同じで列車に乗った子がいるんだ。」
そう口にしながら僕を・・・、そして男の子を見ていました。途端に男の子は僕を~なんで? たぶんウイザードが僕をチラッと見たからでしょう、きっとにらみ、次にウイザードが手にした紙に目をやると、
「それが名簿ですか? だったら僕が載っているはずです。」
当然という顔で言ったのです。えっ、そんな・・・、じゃあ、僕はどうなるの? 途方に暮れてしまいます。またあの停車場で・・・、右を見ても左を見てもなにもないところでひとりぼっち! しかも帰る方法も分かりません。その時、女の人~副校長が、
「あなたは本当にあの停車場にいたのかしら?」
男の子を探るような目で見ながら言っていました。でも・・・、
「はい、いました。」
男の子はきっぱりと言っていたのです。
「おかしいわね。わたくしもあの停車場にいたのだけれど、あなたを見ませんでしたわよ。」
「そ、そんなことは・・・。僕はいました!」
「そう言われてもね・・・。」
懸命に抗弁する男の子でしたが、突如、顔色? 違います、顔色もそうですが体が~変身? 姿を変えていました。僕ははじめ同じような境遇に・・・、心を痛めていたのですが、突然の変身を目の当たりにして目が皿のように開いてしまいます。
瞳を貫いて飛び込んできたのは・・・、それはそれは鮮やかな青色? 緑色? の鎧を縦一列に並べ重ね合わせたようなぶっとくて長い体に、オレンジというかケバケバしい黄色の足がうじゃうじゃ・・・。そして背丈は鬼さんたちと同じくらいのばかでかい~ムカデの化け物! にかわっていたのです。
「あっ。」
思わず僕は声が出ていました。そうして見るからにかたそうな~どう見ても鋼としか思えない・・・、悪魔の角のような巨大な黄色の触覚が僕につき出されたので、なんとかのがれようとするのですが、ウイザードの見ているなかで僕の背後に~化け物は素早く回り込み、五十四対の~いえいえ、数えることなどできません、うじゃうじゃついている足で羽交い締めにされてしまいます。
身動きできない僕の首筋にムカデの化け物は、鋭い牙~ガチガチと音を立てながら押しつけ、しかも生臭い息を浴びせると、
「おい、坊主! お前のような役にも立たないクソガキを暗黒国に連れて帰ってもしかたないから、ここにいる奴らに俺の恐ろしさを教えるためにも、見せしめに始末してやる。覚悟しろ!」
牙の奥から濁った恐ろしい声を吐きだします。さらに、
「冥土の土産に一つ教えてやろう。お前が自分の本ではないかと未練たらしく見ていた本だが、あれはすべてお前の記憶でしかないのさ。オレ様がお前の頭の中から引っ張りだしたものを、形にしただけなんだよ。だからお前の頭なんて、所詮、過去と今しかないのさ。未来が分かるのならいざ知らず、なんの役にもたたないってことだ。そんなカスみたいなやつを暗黒王様の前に連れて行くことなんて、恥ずかしくってできやしねえ。へっ、バカバカしったらありゃしねぇぜ。暗黒王様は何がうれしくって、お前をさらってこいと言ったのか? オレ様にはとうてい理解できん。」
そして唾・・・、毒? を吐くと、
「過去なんて、なんの役にもたたねぇんだよ。未来が分かる? 分かったからと言ってどうなるんだよ! オメエは、救世主さまか? 未来なんて誰も分かりゃしねぇのさ。もし分かったら、分かっただけ煩わしいだけだ!」
ムカデの化け物は僕に恨み? よく分かりませんが、僕は恐怖で体がこわばり言葉にならない~助けて・・・、あっ、殺される! 声をあげようとしてもあげることができません。それより何より、なにも考えることが~そのため、あっという間に気を・・・。気がつくと、何がどうなったのか・・・、副校長や鬼たちが心配そうに見ていました。
ウイザードの顔も~見えます、僕は生きていたのです。床に転がった僕をウイザードは助け起こすのではなく魔術~手品ではありません・・・、立ち上がらせると、
「君は車掌さんに助けられたんだよ。」
と言っていました。どういうことか分からず僕がポカーンとしていると、
「車掌さんは偏光光線をつかえるみたいで、君を捕まえていたムカデの化け物に、自分を襲わせるように仕向けたんだ。だから君はすぐに放され、何事もなく床にのびていたというわけさ。」
さらに、
「アッハハ。」
笑っていたのです。なにが・・・、笑うウイザードにビックリする僕でしたが、ウイザードの顔にはよかったと書いてあったような・・・。
助かったのは本当に有り難かったのですが、心配~車掌さんが心配になり、
「そ・・・、それで車掌さんは?」
するとウイザードは、
「ああ、彼はロボットだから大丈夫だよ。なにせ金属の皮膚だから咬まれてもどういうことないし、毒だって入るわけがない。」
きっぱりと言います。頭の上の蝿も追えない僕でしたが、
「そ、そうですか・・・、よかった! お礼を言いたいのですが、車掌さんはどこに?」
すると、どうしたことかウイザードは顔を曇らせ、
「残念ながら、彼はもうここにはいないんだよ。」
「いない?」
「そうなんだ、彼はムカデの化け物とともに外に飛び出していったんだよ。」
「え、えっ・・・、それじゃあ!」
「でも、心配しなくても大丈夫だ。外は宙だし、彼は酸素がない方が良いくらいだからね。」
ウイザードの言ってることがまったく理解できない僕でしたが、車掌さんが無事であることだけは分かったのです。そして昼~たぶんまだ昼・・・、なのに車窓いっぱいに瞬く星を眺めていると、次の駅『霧の海』に着いていました。
TO be continued
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