魔王号、空を飛ぶ

 僕は絶望のなかで、しかたなくウイザードと呼ばれる人のはすかいに・・・、座ります。通路を挟んだ向かいの席には、副校長と呼ばれる女の人がバッグから小振りな本を取り出して読み始めていました。でもこの光景、どこかで見たような・・・。そうだ、母さんや父さんとたまに~僕は学校と部活で忙しく・・・、強いて言えば部活? とにかく忙しくて電車やバスにはほとんど乗ることがなかったので・・・、またまた記憶がよみがえった? 

 とはいえ記憶がよみがえってもどうしようもなかったのですが、それはそれとして、乗っている人の胸の内など誰も~一人一人がかかえている不安や苦悩、喜びに怒りなど分かるわけが・・・、しかも知る必要もなければ、知る手立てもないわけで、ウイザードも副校長も僕の気持ちなど絶対に分かりません。 

 そのため余計に~言い方はおかしいのですが、これから先、どうなるのか? 僕は不安がいっぱいで、胸がはち切れそうになってしまいます。そのようなことからイヤでもウイザードを~すがる眼差しで見てしまうのですが、ウイザードは紙を~副校長に見せていた紙をていねいに四つ折りにすると、手帳にしまっていました。手帳? そう言えばどこから手帳を・・・、なんでこんなことが気になるのでしょう、ウンザリ! してしまいますが、気になるものはしかたなかったのです。

 それからもウイザードから目を離せないでいると、突然、ガチャンと~列車が身震いするように揺れ、一段とスピードを上げていました。もう・・・、絶対に逃げることができません。絶望と対峙するしかありませんから、僕は何とかしてこれからのことを知らなければならなかったのです。聞かなければ・・・、でも考えがまとまらない・・・、けれども遠慮などしている場合ではありませんでした。

 ウイザードをあらためて見ると、手帳を広げなにかを熱心に書いています。僕は聞こう、聞こうと焦るのですが、肝心な質問が~的外れなことも聞けず・・・、また聞けるような雰囲気でもなかったので、考えを変え~一緒に乗った鬼たちは何をしているのだろうと見ると、なんということでしょう! 大きな~それはそれは大きな態度・・・、僕たち以外、誰もいないことをよいことに、ふんぞり返っていました。ふんぞり返る? ちょっと違いますが、好き勝手な格好をしていたのです。

 そう言えば、この客車はどういう訳かゆったりし過ぎ~まさか鬼専用? それはないでしょうが・・・、鬼たちは思い思い~ぶっとい足を窓枠にかけたり、背もたれに引っかけたりと、行儀の悪い~まるでヤンキー? ヤンキーだからみんな行儀が悪いとは限りませんが、とにかく鬼たちは肘掛けに頭をのせて、誰がみていようと関係ないといった格好・・・、しかもでっかい顔をして~もともとでかい? 寝転んでいたのです。

 そんな鬼たちを見てしまうと、話しかけても真っ当な答えが返ってくるかどうか・・・。僕は再び頭を切り換えウイザードに、

「この汽車は・・・、どこに行こうとしているのですか?」

 尋ねていました。うつむいていたウイザードですが、心持ち顔を上げると、

「うん? この列車は、王立、天の川銀河学園を目指しているんだよ。」

「王立? 天の川銀河学園・・・?」

「そう。」

 でも、それだけで、あとはなにも・・・、そして再び手帳に目をやっていました。聞きたいことは両手いっぱいどころか山のようにあるというのに、何も・・・、そう、なにも聞くことができません。

 諦めた僕が外を眺めていると、列車は再びガクンガクンと~しゃくるように客車が引っ張られ、以前にも増して猛烈な勢いで走り出していました。えっ、僕の知っている速さではありません。『何事?』と思い窓を~窓は二段になっていて下段の窓が上にあがる構造だったので押し上げて顔を突きだすと、景色が~なにもかもが形を失って飛び去っていました。

 気がついたウイザードは、

「ダ、ダメだよ、窓をあけてはダメだ。頼むから・・・、閉めてくれないか。・・・でないと、あぶない。何かあったら・・・、どうするんだ!」

 おおきな声で言っていました。どうしてダメなのか僕には・・・、なぜウイザードが慌てたのか・・・。すると・・・、なんということでしょう、汽車が舞い上がっていたのです。でもどうやって? 僕に分かるわけが・・・、レールもないのに列車は空の高みをめざし一目散に駆け上がっていたのです。


 やっぱ、大当たりじゃないか! 当たり前だの・・・、いかん、いかん、またパクってしまった。わたしとしたことが、パクりのET・Tのマネ~パクりのパクりをしてどうするんだ! まあ、それは置いておくとして、思った通り少女が~いやいや、少年が旅をしているじゃないか! ET・Tの奴、違うと言っておきながら、汽車は出てくるわ、空を飛ぶわ、なんといい加減な! などとグチャグチャ思うも、膝に置いていたコッペパンがなくなって~食べてしまえば当然、なくなるのだが、そのため『クソッ』腹減ったと思いながらも、

「これは、あれ・・・。真夜中の汽笛がどうのこうのと書いていた・・・、続き?」

 すると、どうしたことかET・Tが照れた? こいつが照れるわけは絶対に~絶対がつくのだが、それが照れたように、

「そういう訳ではないのですが、たまたま成り行きで・・・。」

 なな、なんと、ロボットが言い訳している・・・。まあ、いつものことか!

「それで・・・、これからどうなるの?」

「銀河学園、目指して舞い上がった汽車ですが、次は『霧の海駅』に止まります。」

 『霧の海駅』なんだそりゃ?

「この汽車は、そもそもどこからきたの?」

「車庫です。」

 なんという当たり前のことを! 私は聞いてしまった・・・。

「車庫? ということは、みんながいた場所・・・、停車場が始発駅だったの?」

「違います、始発駅は車庫です。」

『始発駅は車庫・・・、それもあり?』、とにかく間が抜けたことを聞いてしまったが、もしかしてわたしの聞き方が悪かった? そのうえET・Tは人ごとのように・・・。確かにものを書くということは、客観というか、一歩退いた目が要求されるのは当然としても・・・、などとグチャグチャ・・・。もしかして私がひねている? 違う、こいつが! たぶん後者の方だろうが、私は・・・、すべて時代錯誤? 

 世の中がこんなに豊かになったというのに、わたしは貧乏を極め~極めるならほかのことでと自分に言いたくなるが・・・、その日その日の食べるものにも事欠いて・・・、ウッ、ウウウ、涙、涙。これは絶対、暗黒王か魔王の仕業に違いない! なあーんてバカなことを言ってもしかたないので、読むのをやめ冷蔵庫を漁る。

 ところが・・・、なにもないのだ。貧しいのは当たり前だが、命の糧~食べ物がまったくないのである。私は金がないのに食い意地だけは張っていたから、なんとしてでも食料の調達をしておかなければならず、近くのスーパーに買い出しに行くことにする。

 以前はET-Tに買い物に行ってもらっていたのだが、食べる必要のないET-Tなので調理というか食材というか・・・、あれが食べたい、これが食べたいという思いがまったくないから、いちいち何となにをとメモに書いて渡さなければならなかった。だが、いつも~四六時中、わたしの頭は冴えているわけではなかったので、意識が散漫になっているときは、ついいい加減に・・・。

 なんか自分のことをいいように言いすぎたが、私だって人間~ロボットならそれこそ下手な文章など書いていないはずで・・・。『なあーんでか! それはねっ』、いかんいかん、ET・Tに乗り移られた? これこそ暗黒王か魔王の仕業~などとアホなことは言わないで、悲しいかな私は人間なので、いつもかつも正確なメモなど書けるわけがなかったのである。

 そうしたことからこの前なんか・・・、買い物に行ってもらう前にコロッケが好きだと何気なくET・Tに言ったら、コロッケが二十一個! 逆算すれば一日三つ~私は一度に三個は食べていたので、延べ一週間分、それとも一回で二十一個食べろというつもりだったのか、大量に買ってきていたのだ。

 わたしはけっして賢く? 賢いなんて言葉を使うこと自体おこがましい? それはともかく、辛抱強い! ので、逆算に従って一日三個。最初の日はそれでもよかったが、二日目からは~冷え切っている上に油が回って、とてもじゃないが食えた代物ではなかったのである。そのため、それ以降、おそろしくて頼めなくなってしまい、買い出しは自分で行くようになったのだ。

 なぁーんて過去の経緯はどうでも~どうでもいいことはないが、食べ物がないとなればET-Tなどにかまっている場合ではなく、自分のためにすること~それはただ一つ! 何か食い物を買ってくることだった。


                          TO be continued


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