⑪
「みややんが悪いんだよ……あんなふうに、あの頃みたいに、私と一緒のことをするから——」
私の手をそっと握る大きな手の、その尋常でない熱に背筋が震える。食われる。知ってる。それはかつて何度も経験した、「ごめんねうちもう我慢できない」のサイン。
「いやあの、待って? だってアナタ、さすがにいまそれは不義っていうか、旦那さんは」
なんて、そんなことを言える筋合いがどこにある? 多様性だ。家族の形はいろいろで、細かい事情に踏み込むのは野暮ってものだ。ミウラは相変わらずのドブの瞳でひとこと、「彼ならいいの」と——いや「初めから大丈夫なようにしてあるから」と、どういう意味かはわからないけどこれだけはわかる。
ミウラは昔からとんでもない女だ。
彼女の食卓に叶えられなかった奇跡はなく、もうあの旧校舎にセミはいない。
消えた。数年前、旧校舎を取り壊すと同時に近くの雑木林もなくして、今は新しい体育館が建っているのだとか。そう聞いた。本当かどうかは知らないけどどうでもいい。あのセミは本当にまずかった。口の中で命の限り鳴きまくって、そういえばあれは交尾のために
人生最期の一週間、力一杯鳴いて喚きまくるのは、でも全部「セックスしたい」の大絶叫だと思うとなかなか
〝それから〟を。
ねっとりと重く輝くドブ色の瞳。かつて毎日向けられた地獄の底みたいな愛の、そのすべてを受け止めるだけの精力がいまの私にあるのか? このどこまでも細く小さく頼りない体で、どうしてあの嵐みたいな愛に耐えることができた?
わからない。忘れた。少女に相応しくない場面はすべて削られ、その後にはただ美しい百合の丘だけが残って、でもそれが焼き尽くされた下からもぞもぞ這い出てきた青春の
私には何もない。あの頃はまだ未来があって、でも今ではそれすら残りわずか——なんて言うには少し早すぎるけど、でも十七の頃と一緒というわけにはいかない。目減りした。七年というのは決して短くはない猶予で、それはミウラの与えてくれたものだ。
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