——〝ごはんは魔法だ。何だって倒せる。きっと、どうにもならない未来だって〟。


 七年かかった。その「どうにもならない」と「未来」の間に、「ふたりの」という語が省略されていたことに気づくのに。

 無敵のミウラが唯一倒せなかったそれは、でも別に勝てなかったわけじゃない。続いていた。停戦も降伏もせず、今の今まで地下に潜伏を続けて、そしてその結果が今この瞬間だ。

 奇跡の逆転劇。手の中に、さっき煽りかけて噴き出した洗剤入りのグラス。鈍く輝くアクアブルーの液体は、ミウラと私で交互に減らし続けて、もう底から二センチほどしか残っていない。


 ——覚悟を、決める。

 正直、悪くない選択だと思う。だって私には何もない。失うものも、現状維持を選択すべき理由も。ミウラとは違う。突出した才能や実力もなければ、そのおかげで取れる無数の進路もない。迷わない。いつでも我が身をなげうてる身軽さ、それが取り柄のないチビの最大の武器だ。

 無手無策の真髄は捨て身にこそあり。

 過去を振り返るわけじゃない。栄光に縋るつもりもない。だって彼女はもう泣いておらず、ただ奈落みたいな顔でねっとり微笑むばかりで、であればいまの私にはもう、「放っとくのは違うだろ」という動機もない。


 ただ、面白そうだから。

 あとはまあ、なんだかんだ好きだから。ここで乗ってみたらどうなるかなと、それくらいの好奇心でいいと思うのだ。


 かんぱーい、とひとこと、喉の奥に広がる最低最悪の味。かくして超大型天才巨乳少女ミウラの、いや性欲過剰人妻であるところのミウラの、その七年越しの戦いは決着を見た。

 ミウラは無敵だ。私の女に、その魔法の食卓に、やはり倒せないものはない。


 ——ただひとつ、「このままでは私の体が本当にぶっ壊れるかもしれない」という、その可愛らしいリスクさえ除けば。




〈性欲過剰人妻ミウラの決して存在してはいけない食卓 了〉

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