⑨
「——ホガッ?! ォボッ、ゴボアァァッ!」
衝撃。喉の粘膜を責め苛むかのような初めての味に、肉体が咄嗟に反応する。緊急排出。目鼻口から勢いよく噴き出る、アクアブルーの毒霧と虹色のあぶく。
洗剤。てめえ何が飲んでも大丈夫だこの野郎、と、そんなことはいまさら言わずもがなだ。そうだった。毎回毎回、こいつのおっ始める魔法の食卓はいつも。
あの夏、旧校舎裏で食べたセミの味は最悪で、木の枝はしばらくお腹の中で暴れ回った。冗談じゃなかった。こんなもんに付き合わされる方の身にもなれバカと、そう本気でキレ散らかす私に、都度泣きながら答えたミウラの「ごめんでもうちそんなの頼んでない」が懐かしい。
ミウラの魔法の食卓に付き合う、その理由は実際、特になかった。ただ止めても止まらん以上は他に手がないというのと、あと悲壮な覚悟で泣きながら変なもの貪り食う女を、そのまま放っとくのは違うだろって思った。あとは嫉妬だ。報復でもある。こんな何でも持ってる反則みたいな女に対して、どうしていつも私が心配する側に回るのか、そりゃ筋が通らんだろ神様ってのいうのが当時の率直な気持ちだ。
実質、ふたり仲良く自傷していたようなもので、そんなことしてるからくっついちゃったんだよなぁコレと今にして思う。
居酒屋の個室、ふたりだけの空間に、ふわふわと舞う無数のシャボン玉。「みややん、きれい……」とうっとり眺めるセレブ人妻の、その様子がでも明らかにおかしい。何? 酔ってる? 上気した頬と、うっとりと——というか、ドロリと濁ったその真っ黒い瞳の、まるでドブみたいな色に覚える七年ぶりの感覚。
——ミウラ。
私の愛した、私が誰よりも嫉妬し欲した、私の青春そのものの女。
何でもできるくせにどこへも行けない、その無駄にでかいばかりの肉体の奥、秘めた熱情と汚泥のような淫欲の、そのすべてを一点に濃縮したかのような瞳。怪物。女の形をした呪い。
立ち戻る。一瞬で、柔和な人妻だったはずのそれが、あの烈しい性欲の塊に。
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