千里眼の機械
肘木藻屑
千里眼の機械
「これがその機械ですね。」
「ええ、その通りです。」
博士は少し残念に思った。
リポーターは博士をじっと見つめている。鉛ガラスの向こう側に見える巨大な装置には、あまり興味が無いようだ。
博士は説明を続けた。
「この巨大な装置は、私が半生を懸けて開発した、千里眼の機械なのです。」
レポーターは丁寧に、しかし台本を読むように疑問を投げかけた。
「どのような機械なのでしょう?」
「この装置は巨大な受信機であり、遠く離れた場所にある送信機と全く同時に動くのです。すなわち、光や電波を用いるのではなく、量子の特殊な性質を利用して、全く異なる場所に映像をワープさせることができる機械なのです。」
「ワープですか。私には全く想像も及びませんが。」
リポーターの目線は壁に取り付けられたモニターに注がれている。気になって仕方が無いといった雰囲気だ。
「それで、この機械はどのように役に立つのでしょう?」
博士はもう少し装置の詳細な仕組みを説明したいと思っていたが、気を取り直した。今日は歴史の1ページに残る重要な日なのだ。
「私たちがこの装置の原理を発見してから100年、そして当時最新鋭の衛星電波望遠鏡と偉大なる頭脳によって、初めて系外に生命体が発見されてから40年の時が経ちました。そして私たちが60年前に発射した宇宙探査機には、この装置の発信器側が取り付けてあるのです。」
博士は物々しく続けた。
「この装置がなければ、12光年を隔てた私たちの友人との交流は、長い長い待ち時間、時には一生を要するものになっていたでしょう。しかしご覧ください。この装置の働きによって」
博士は身振り手振りを交えて熱弁する。
「遠く離れた生命体同士が完全に同時に交流を行うことが可能となったのです。」
カメラマンが博士の指さすモニターに注目した。モニターには恒星が映し出されている。リポーターがもっともらしくモニターの横に並んだ。
「目標の惑星はこの恒星の星系に属していると見られています。探査機は少しずつ速度を落とし、目標の惑星に着陸する予定となっています。」
中継画面の奥で全世界が未知との遭遇を固唾をのんで見守っていた。
「あっ、見えてきました。私たちの星と同じ、青い惑星です。」
わぁ、と歓声が上がった。博士があっ、と呟き、しばらくして、探査機は無事に着陸した。
「しかし、生命体の姿は見えませんね。」
リポーターは七色の触手をたなびかせながら、不思議そうに言った。
千里眼の機械 肘木藻屑 @narco64
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます