最近プロセスエコノミーという言葉を作った人がいるみたいです。話の内容が作品だけで伝わらないというのは作者の力量不足という感じがして悲しいのですが、とはいえ映画などでは昔からパンフレットなどで、劇中では触れなかった設定や制作の過程の紆余曲折、わかりづらいように仕込んだ小ネタなどを解説しているわけです。
この作品はわざと伝わりにくく書いている部分があり、特に最後の壁という作品は背景知識が無いと、何のことだ?と思う方も多いと思うので、解説します。
作品の解釈は読者に委ねられています。作者がこう言ってるだけという見方もできます。参考程度に。
・千里眼の機械(SF)
千里眼の機械を作った博士とテレビ中継のリポーターは宇宙人で、彼らが交信しようとしている青い星は地球。博士の驚きとリポーターの生命体がいないという発言からわかるように、地球の生命は既に滅んでしまっていた。
ほかの星と交信すると言い出した時点であっこいつら人間じゃねぇ……って思った方はかなり古典SF的嗅覚が鋭い。こいつEPR相関を理解してないなって思った方はもっと鋭い。
ちなみに博士たちのいる星は公転周期が地球の何倍も長いため、たった12年で地球の生命が全滅してしまったわけではなく、気候変動により長い時間をかけて少しずつ滅んでいった。
・雨、降らないかな?(サスペンス)
三人の通う学校の教師の一人が、学校の至る所に盗撮用のカメラを仕掛けていた。地の文の語り手はこの教師で、髪フェチである。広美が更衣室で着替えているところからバッチリ盗撮盗聴していた。
三人の会話が自分の行為と合致していたことで、気づいているのではないかと恐ろしくなり学校を後にした。
私の実体験というか、私の高校の更衣室に実際にカメラを仕掛けていたやつがいました。怖すぎる。
・リンゴジャム(レシピ)
リンゴジャムと言いつつ明らかにトマトケチャップのレシピを説明している。
考えようによっては人間を調理していると解釈できなくもないかも。
トマトはイタリア語で|愛のリンゴ《ポム・ダムール》と呼ばれていることにちなんでリンゴジャムになっている。
・誕生の儀式(SF)
時間がさかさまに動いている世界における人間の誕生を扱う。
この世界の人々は彼らにとって未来に当たるはずの事柄の記憶を持っており、それ故に彼はこの世にまだ存在していない親友の記憶を持っている。
・壁、なぜ人は孤独を求めるのか?(随筆)
1961年8月15日、ベルリンの壁建設後初めての西側への亡命者となった東ドイツ人、ハンス=コンラート=シューマンに仮託して、作者が考察した人間が孤独を求める理由を語ったもの。
彼は亡命したとき人民警察機動隊の隊員として、国境警備任務に従事しており、亡命しようとする者を射殺する任務を負っていたが、業務中に壁を確かめるふりをして脱出した。
史実の彼はベルリンの壁の崩壊後1990年に故郷へと帰ったが、家族やかつての同僚との軋轢を苦に1998年に首つり自殺した。”|魂が泣くとき……《Wenn die Seele weint》”は彼が亡くなったときポケットに入っていたメモの内容。
人間の根源的な恐怖とは死であり、死んだ人間は意識を失って完全に《《外部化》》すると私は考えている。つまり物理的には存在しておらず他者の意識の中の存在となるわけだが、《《外部化》》は生きている間にも起こっている。彼は自分の意思とは無関係に有名になる事によって《《外部化》》が進み、家族やかつての仲間を思う彼の気持ちと裏腹に《《外部化》》された彼のイメージに従って判断され続けることで、自らの死に直面したかのような錯覚によって、強いストレスを受けていた。 《《外部化》》を避ける単純な方法は孤独であることだ。しかし、孤独に耐えることもまた、人間には難しい。
付け加えて彼の場合、実際的な死の危険が無いとも言い切れなかったため、恐怖から完全に逃れることもまた不可能に近く、悩んだ末に自ら死を選んでしまった。
皮肉なことに彼を有名にした写真につけられていた題名は"|自由への跳躍《Sprung in die Freiheit》"。