しばらくしてから、第204号室。

 塩田は誰も居ない204号室の浦瀬が使っている机に向かった。

 一番うしろのど真ん中の席。

 机の中には浦瀬のノートPCが入っている。

 塩田は浦瀬のノートPCの電源を入れる。USBポートには64GBのUSBメモリーが刺さったままだ。

 パスワードは知っている。大学で4年間連れ添って遊んできた間柄だ。

"qwertyui"

 合理主義の浦瀬らしい。

 15インチの液晶に死ぬほどたくさんのアイコンが並ぶ。

 <オート・マタ>関連のフォルダーをすべて消去していく。ノートPCのOSの検索まで使い<オートマタ>、<AutoMata>をすべてみつけ次第、右クリックしてからDボタン。

 これは削除ではない。

 盗作作家を抹殺しているのである。

 コードエディターソフトも開き、そこにある関連のフォルダーも消していく。

 違う殺していく。 

 USBメモリーも電源が入ったまま引き抜いた。大学にはたくさんのゴミ箱がある。

 捨てれば良いだけだ。

 どれくらい、<オート・マタ>が存在するのかわからないが概ね殺した。


 しかし浦瀬は何度でも<オート・マタ>を制作することが出来る。


 塩田が盗作作家に罰を与えている間に学内の無線LANを経由して浦瀬のメールソフトにEメールが届いた。

 さっき塩田が東部構内にある経済学部の図書館から浦瀬のアカウントに送信したものだ。


『、、、あなたが頻繁に利用されている複数のIPアドレスから当方のサイトに対する不正アクセスが多数確認されました。よって当方はこれを偽計業務妨害とみなし、警察、裁判所に被害届け出しあなたに対し刑事民事双方の法的な責任を求めます。以後刑事、民事での法的処置がなされることをここに通告します。、、、、損害賠償請求の金額は追って正確に通告させていだきます、』

 などなどetc、、。


 全く同じ文面のメールは指導教官の大貫准教授にも送っていた。

 "あなた"の部分を"当該学生"のに代えて。


 これで浦瀬が諦めるかどうかは知らない。

 それは浦瀬の問題で塩田は感知しない。

 大貫准教授がメールを開きもせずに削除してもそれは塩田には関係ない。

 やるだけのことはやった。やらなければいけないと思ったことはすべてやった。

  

 塩田怜央しおたれおはいつ頃からだろう、、正確には覚えていない。高校生のころからかネットに小説を投稿し続けて生きてきた。


 ペンネームは高倉涼たかくらりょう


 書く理由は人それぞれだろう。塩田自身もよくわからない。

 だが、いつも書いてきたことは事実だ。

 そしてまさに浦瀬が居酒屋であざ笑っっていた閲覧回数、PV回数がゼロや一桁の作家だ。

 感想が付けば泣くほど嬉しく、感想や批評より長い返信を書いていた。

 書けないときもあれば、書くのが止まらないときもあった。浦瀬の言っていたこともあたっていた。自分も好きな作家の作風をかなり真似ている。あまりにもたくさんの作品がありすぎて他の作家の作品をあまり読んでいないのもそうだ。

 ただし盗作だけはやっていない。

 どうして人が小説やエッセイ、詩を書くのかは塩田自身にもわからない。文学はおそらく文字を持ちそれに起こす前から入れれば洞窟に画を描いたりすることと同じくらい古い表現方法でまた、媒体としても一番古い媒体だろう。食事をしたあと焚き火の周りでいろんな物語が語られたのはまちがいない。

 物語は言葉とともに生まれたに違いない。

 常に人とともにあったのでないか?

 そして、媒体が動画やVRまで発達した今日こんにちですら人は物語を書き読んでいる。


 高倉涼たかくらりょうは盗作作家を殺しつくすとUSBメモリーに残っているポータブル版の盗作作家を一階の可燃ごみに放り込んだ。

 盗作作家の刑罰は火刑だった。

 高倉涼たかくらりょうはもうすっかり暗闇が支配する大学をあとにした。

 

 高倉涼たかくらりょうは小説投稿サイトの中にしか存在しない。

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<オート・マタVer0.98> 美作為朝 @qww

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