第7話


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皇国の北方にある国境警備の砦。

ここの冬は厳しく、長く働ける者はいない。


「ゼム、皿洗いが終わったら盛り付けを手伝え! 次は第五騎士団の皆さんが食事に来られるぞ」

「はい!」


足首に魔導具をつけたゼム。

この下働きがいつからいるのか誰も知らない。

しかし、男は皇国の者ではないため下働きから脱することはできない。


「ゼム!」

「はい!」


すでに転生の輪から外された罪人だと知るものは……記録だけである。


「おい、このゼムの来歴は間違ってないか」

「すでに二百年? 誰だよ、書き間違えた奴」

「正しい記録もないな。仕方がねえ、このまま空欄にしておくか」


その記録も今、永久に消されたようだ。




ここは南部、皇国内でも暑さ厳しい砂漠地帯。

だからといって人がいないわけではない。

砂金を求めて人は住む。

人が住めばそこには商売を始める者も住む。

そして性を売る者たちも身を落としてやってくる。


「ルビー、私はボタンが取れたからつけ直せっていったのよ! これはなに⁉︎ どうしてこんなに下手なのよ」

「すみません! お許しください!」

「棒打ち三十回」

「お許しください! どうか……」

「さっさと連れていって!」


ここに、性を売れない女も住む。

最下層に落ちたルビーはなにをやらせてもできない。

そんな彼女をいびるのが、この娼館で働く者にとって一番身近な快楽だった。

皇国の国営であるこの娼館が建てられてすでに七百年。

当時から最下層にはルビーという名の不出来な女が住むという。

今のルビーが死んでも新しい女がその身を落とすのか。


「ルビーってこの娼館だけだった?」

「そろそろ私、娼館替えになるわ。次の娼館にはルビーがいるのかしら」


娼館は数多くあり、売れっ子であればあるほど一ヶ所で長く勤め上げることはできない。

また売れない娼婦でも最高で三年で娼館替えになる。

この国営娼館で異動がないのは最下層のルビーのみ。

この娼館は国が管轄している。

ルビーの正体を知るのは皇族のみである。




皇城の地下に貴族でも重い罪を負った者たちが閉じ込められている。

彼らは死するその日まで出ることができないため、機密性の高い仕事が与えられている。

主に財務関係だが、設計図などもこの地下の罪人が任されている。

そんな彼らの中に、最重要の機密を預けられている男がいる。

名もなく声も失った男は、ただ与えられたことに従い続けるだけだった。

ただし、彼の姿を見た罪人はいない。

ひとりだけ貴族牢を与えられたのか、個室が与えられているからだ。


「働きに見合った部屋を与えられている」


そう噂されている。

そこにいる男が誰なのか、何の罪を犯したのか。

それを知る者はいない。

ただ、この劣悪な環境下にも毎日決して休まずに働くその部屋の罪人は特別優遇されていると妬むようになった。

ほかの罪人たちは、その部屋の罪人を追い落として自分が優遇されようと、今日も無駄な努力を続けている。


……まさか、そこの罪人がすでに千五百年も幽閉されているとは知らずに。




隷属の魔導具は別名『血の魔導具』。

小さなトゲが使用者の皮膚を破り血を吸う。

それは魔導具を通して血に植物の生命が交じる。

彼らは『真人間』に生まれ変わったのではなく、植物のに生まれ変わったのだ。


人間ひとから外れた彼ら三人に、死の安らぎは永遠にこない。




(了)

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愚かこそが罪 アーエル @marine_air

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