大学生なら爆破しろ
ドォォォォオオオン!!!
爆破予告の三十分前。経済学部の第三号館の前で轟音が鳴り、煙が巻き上がった。
「うわぁあああああ!! 爆発だ!!」
「なんだよ理学部じゃねぇのかよ!」
油断していた人々が逃げ惑う。爆破だ。いや、違う。轟音を出したのは稲葉、煙を出したのは三井。実際には爆弾などない。大学が爆発したと見せかけるためのフェイクだ。しかしそれに気づく者はいない。予告の効果も手伝って、ほぼ全員が本物の爆弾だと思い込んでいた。たった一人を除いては。
「いやぁ、来ると思っていたよ犯人くん」
煙の中から
「思わぬ爆破があって、周辺一帯は大騒ぎだ。全員が逃げ出す中、逆に爆心地に向かってくるのはただ一人、犯人だけだからな」
「君の本命の爆弾は、濱くんが今調べてくれているよ。理学部研究棟の五階、本館への渡り廊下があることから人通りが多く、犯人が特定しにくい場所だ。いい場所を選んだね。そちらに陽動を仕掛けるということは、本命の爆弾はキャンパス内の真反対に決まっている。そしてそちらも人通りが多く犯人が特定しにくい場所。君は捕まらないことに命を懸けているようだからね。かえって特定しやすいよ」
帝がそう言って笑った瞬間、ポケットのスマートフォンが鳴る。濱だ。
「見つけました帝さん! 法学部十二号館横のグローバルアカデミックセンターです!」
「どうする? 君が仕掛けた爆弾、見つかっちゃったよ。大人しく自首する? どうせ捕まるなら、爆発させちゃうかい?」
帝は警察ではない。大学爆破を愛する者だ。提示する選択肢のいかれ具合を知って、犯人はその時初めて自分がとんでもない人間を相手にしていることに気が付いた。
「嫌なら俺が爆発させちゃうよ」
ドォォォォオオオン!!!
「教授死ね──ッ!!」
叫びと共に小屋が散る。岐阜の山奥では模擬大学爆破大会が予定通り行われていた。
「……これは!」
「美しいオレンジの炎、正統派の大爆破だ……。これは芸術点が高いぞ」
「技術点および芸術点の合計は112.15点!」
「素晴らしい爆破だ! 今年度大会の優勝は藤代那由他で決まりだな!」
捜査にやってきた警察を押しのけ、会場の盛り上がりは最高潮に達していた。
「優勝賞品はドンペリです! 藤代選手、おめでとうございます!」
「岐阜県警です。ちょっとお話いいですか」
「ありがとうございます! 教授への恨みを込めた正統派の爆破にこだわりぬいた結果です!」
「ドンペリはどうされますか?」
「あの、学生さん? 警察ですよ」
「今晩、宿舎でみんなで飲みます!」
ここまで綺麗に無視をされては警察が可哀想である。
「……未成年飲酒?」
「いいえ、この大会に出場する学生は、現役で進学した一年生であろうと、全員が『私は二十歳以上です』という書類にサインをしています。なので全員が二十歳以上です」
早口のアナウンスが会場に流れる。実際にはそんなのは何の証明にもならないので注意しましょう。
「帝先輩! 取りましたよドンペリ! さあみんなで──」
那由他はそこで帝がいないことに気づいた。模擬大学爆破大会を連覇するため、厳しいトレーニングを行っていた那由他は、帝が岐阜にいないことを全く知らない。
「帝先輩! どこですか帝先輩ィ〜!」
帝はここ、横浜にいる。三井が出力を誤ったせいで未だに引かぬ煙の中、犯人と一対一、堂々と対峙している。
「【
帝がパチリと指を鳴らす。
ドォォォォオオオン!!!
遠くで轟音が鳴った。犯人は思わず音のする方を振り向いた。白い煙が吹き上がっている。度重なる騒ぎでもはや大学に人は残っておらず、悲鳴もほとんど聞こえなくなっていた。ここまで届いた振動で、帝の姿が霞んでいるように見える。
「ま、音と煙と軽い衝撃波だけだから被害はほぼゼロだ。君の爆弾と違ってな」
「お前、なんで爆発なんか……」
犯人の声はかすれている。せっかく捕まえたのに、目の前の帝という男は大学を爆破してしまった。異常者だ。いったい、なぜ。
帝はにやりと笑って答える。
「だって、学長に据えるお灸にちょうどいいだろ?」
嘘だ。本当は大学を爆破できたらなんでもいいのである。
全国大学爆破サークル合同夏休み合宿 本庄 照 @honjoh
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