第5話 世界一馬鹿な先輩に…
それから俺は、退屈な時間を過ごした。
先輩と逢えない、それだけで1日が48時間に感じたし、帰り道が大嫌いだった授業よりもつまらなく感じた。
でも着実に、一定の速さで時は進み、そして、受験シーズンが終わりを迎えた。
「約束通り、先輩に逢いに行こう」
道中、俺は走った。一刻も早く逢いたかったから。逢わなければならないと感じたから。
そして、先輩が一人暮らししていたマンションの部屋に着いたのだが、そこの表札には違う人の名前が書かれていた。
俺は大家さんに事情聞いた時には、走り出していた。
先輩が2ヶ月近く前から入院していただって?
そんなの、うそだろ...。
心臓が破れんばかりに走り、走り、走って、俺は先輩が入院しているらしい病院にたどり着いた。
「先輩ッ!」
勢い良くドアを開け、今度こそ先輩の名前が書かれている病室に入った。
「ん?あぁ、、君か、」
そこには沢山の管が付けられている先輩の姿があった。
「ッ、どうしたんですか先輩ッ!」
「びっくりさせてごめん、でも落ち着いて、ちゃんと聞いて欲しい」
先輩は、普段の様子では想像もつかないほどに弱々しい声で、そう言った。
「まず、私の病気について話そうか。私は生まれつき病気を患っていてね、良くて20歳、早ければ16歳で死ぬって言われてた」
理解ができなかった。先輩が、死ぬ?そんな、わけが、
「そして私は三学期最初の健康診断で、放課後、先生とお医者さんに呼ばれた。その時に伝えられたのが、もって半年、早ければ2ヶ月ももたないって」
う、そ、? だよ、な、?
「ほんとうは、もうそのときから入院して、安静にしてなくちゃいけなかったんだけど、そんな最期、味気ないと思っちゃったんだ」
「だ、か、、ら、」
「そう、だから君を遊園地に誘った。その、でーと?に誘ったの。想い出が、ほしかったから。そして、君に心配かけないよう、受験が終わるまで逢わないように仕向けた」
一拍を空けて、
「私が死ぬところを君に見せないように仕向けた」
あぁ、やっぱりそうなのか...。先輩は...
「そして今その刻が近づいてきてるってだけ。本当は君が来る前に死んでいるつもりだったんだけど。まぁ、これで私の病気についてはおしまい。次に、私の、家族関係について...」
か、ぞく?
「君は、私がいつ死んでもおかしくない状況で、家族の1人もここにいないことに違和感を感じなかったの?」
それは、俺がこの病室に入った時から感じていたことだった。
「実はね、私も両親、そして祖父母がいないの。祖父母は君と違って、両方とも安楽死だったけど、両親は離婚をきっかけに、全く無関係になっちゃったんだ」
先輩は、どこか懐かしむように、
「だから、君がおばあちゃんを亡くした時、その気持ちが痛いほどわかったの。だから、そばにいてあげたかった。」
でもね、と、切なげな声で、
「私は、もうダメみたいなんだ。だから、最期に1つ、約束。」
もう、ダメ、?最、期、?
「君は恐らく、おばあちゃんを亡くした後、私を生きる意味の1つにしていたんじゃないかと思う。でも、私は死ぬ。だから、君はまた
ひどく落ち込んでしまうと思う。」
先輩は真っ直ぐ僕の目を見て、
「だけど、逃げてはダメだよ。生きる意味を見失ってはダメっ!身勝手なことを言っていることはわかってる。でもねッ、君には、笑っていてほしいッ!」
あぁ、ダメだ。それを聞いたら、涙が溢れてしまう。かっこ、つかなくなっちまう、
「だってッ、君のことが好きだからッ」
目元が熱くなる。我慢してたものが、出てしまう、
「そんなの、俺も好きにきまってるじゃないですかッ!」
そんなふうに言われたら、どんなに苦しくても、絶望しても、歯食いしばって前向くしかないじゃないかッ!
ふっ、と先輩は一瞬微笑んで、そして...
「頼んだよ」
そう囁いて、すっと眠りについた。
そんな彼女に、俺は紡ぐ。
「知らないからな...。俺が美味しいもの食べて幸せな顔してるのを見て、向こうで嫉妬しても...。」
彼女の前髪を指の腹でそっとはらう。
そして、
俺は逃げずに真っ直ぐにその光景を見て
「あんたは世界一の馬鹿だよ。でも...」
俺の憧れた先輩は、世界一の馬鹿だった。
だけど、だけどッ!
「宇宙で1番、愛してる」
【10分で完結】憧れた先輩は、世界一の馬鹿だった kq1 @kq1
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